古き良き時代のオセアニア㉘ パプアニューギニア

ワウの金塊

 私は、オーストラリアとニュージーランドの旅を終え、早朝シドニーボーイング727で飛び立って、パプアニューギニアの州都ポートモレスビーに正午にたどり着いた。そして、その日の午後2時半に、東ニューギニア東南部の山岳地ブロロに向ってポートモレスビーを飛び立った。アンセット・マルの20人乗りダグラスDCは、カーゴも兼ねていて、6人しか乗っていなかった。

f:id:moritayuuzou:20220210142644j:plain

パプアニューギニア州都、ポートモレスビー近く海岸のジャングル

f:id:moritayuuzou:20220210142648j:plain

空から見た、ポートモレスビー郊外

f:id:moritayuuzou:20220210170012j:plain

ポートモレスビーの町

f:id:moritayuuzou:20220210142655j:plain

ポートモレスビー空港の出口

f:id:moritayuuzou:20220210142658j:plain

ポートモレスビーの船の家

 眼下には果てしもなく、ジャングルが続いていた。ジャングルを切り開いた大きな谷間の中にある木材の町、プロロには4時半に着いた。

f:id:moritayuuzou:20220210142701j:plain

空から見たワウの郊外

 プロロからマイクロバスでワウに向かった。道は渓谷の川沿いに走っていた。川には原始的なつり橋があり、谷間にはフープパインやクリンキーパインなど背の高い木が生えている。

 雨も降っていないのに、川の水がドロ濁りなので不思議に思ってドライバーに尋ねたら、川上で金を掘っているからだと言った。

f:id:moritayuuzou:20220210142705j:plain

ワウの警察官

 私は、海抜千メートルのコーヒー畑と小高い山に囲まれたワウに着いて、古いワウ・ホテルに部屋を取った。すぐにカメラを持って外に出た。街を歩いていると、ワウ・クラブがあったので中に入った。私はサイン帳にサインさせられた。

 「トウキョウからか?いつ来た」

 「今日、たった今です」

 私は、六カ月間のオセアニア旅行が終わって、帰路にあったがそう言った。

 中にはカウンターに8人の壮老男子と1人の婦人が坐ってビールを飲んでいた。私は、彼らと打ち解けるのに十分とかからなかった。自己紹介をして、ワウを見物したいのだがと言った時、マルコムさんが、では私がと立ち上がってくれた。そして、車でいろいろと案内してくれた後、夜、家に遊びに来るよう誘ってくれた。

 白人が300人、原住民が1500人のワウには映画館などない。ただゴルフクラブと、小さな公民館のようなワウ・クラブがあるだけなので、夕食後、マルコムさんの家を訪ねた。

f:id:moritayuuzou:20220210142711j:plain

原住民の大きな木太鼓

 ワウはニューギニアでただ1つの金鉱の町で、マルコムさんは1926年に、オーストラリアのシドニーから父とこの地にやって来て採金をしていた。現在は採金が少なくなったので白人のほとんどが去ったが、今いる白人は皆コーヒー栽培をしているので、金鉱の町は農業の村に変貌しているとのこと。 

f:id:moritayuuzou:20220210142715j:plain

ワウ小学校の生徒たち

f:id:moritayuuzou:20220210142718j:plain

小学生のえがいた絵

 マルコムさんはコーヒー栽培をしながら、まだ採金もしている。奥さんがコーヒーを
入れてくれた後、マルコムさんが突然言った。

 「金を見るかね。この数日間で集めたのがあるんだよ」

 彼はそう言って立ち上がり、革製の袋を運んできた。そして、砂金や金塊を見せてくれた。

f:id:moritayuuzou:20220210142726j:plain

採集した金塊を見るマルコムさん

 「この金をどうするんですか」

 「私の自由には出来ないんだよ。オーストラリア政府に送らなけりゃならんのでね」

 マルコムさんは政府から金の代金をオーストラリアドルで貰っていた。

 「1つ土産にあげるよ。しかし誰にも言ってはだめだよ」

 彼は笑いながら、親指大の金塊をくれた。

f:id:moritayuuzou:20220210142708j:plain

小さな金塊をかじる筆者

 その翌日、彼が採金している現場に行って、砂金を鉄鍋で採らせてもらった。このときも彼はウインクして、「秘密だよ」と大豆大の砂金をポケットに入れてくれた。

f:id:moritayuuzou:20220210142722j:plain

砂金採集現場

 彼の息子は、オーストラリア本土で大学を卒業して以来パースに住んでいるが、もう十年以上一度も故郷に帰らない、と淋しげに言った。

 「私は死ぬまでここに住むよ。ここが私の国なんだ。もし、ニューギニアが独立したら私はニューギニア人になる。その覚悟はできている」

 彼は私を見て笑った。ニューギニアの静かな夜、2人でテーブルに向かいあって座り、スコッチを傾けていると、白髪の多くなった父と話しているようであった。

f:id:moritayuuzou:20220111133051j:plain

詳しくは、ニューギニアについても記述している拙著をご覧あれ