古き良き時代のオセアニア㉕ ニュージーランド
トンガリロ国立公園
私は、ニュージーランド南島の観光を終え、北島の中心地ウェリントンに向かった。そして、2日間滞在した後、ニュージーランド観光局のすすめで、中央部へ向かった。
ニュージーランド北島の中央部に、トンガリロ国立公園というところがある。北島にはまれな高山が3つあった。公園内のシャトーに宿泊している時、エドワルド君が私に会いに来た。彼はまだ26歳の独身だったが、トンガリロ国立公園の観光開発中の事業家だった。と言っても、従業員は彼を入れて3人だそうだ。私がここにやって来たことは、ニュージーランド観光局から連絡があって知ったそうだ。
「ルアペフー山(標高2796メートル)のスキー場をご覧になってくれますか。是非日本のスキーヤーに滑ってもらいたいのです」
私は南国土佐の生まれで、スキーについては詳しくない。エドワルド君にスキーの話をされて困ってしまった。
話だけならまだしも、シャトーからジープで、ルアペフー山の中腹にあるゲレンデまで連れていかれ、貸しスキーや靴、レストラン、宿泊所、リフト、ゲレンデの長さ、そして初心者用、熟練者用などを専門的にしゃべられたのだからたまったものではない。
今は初秋なので雪はない。もし雪のシーズンだったら尻餅つきのとんでもないスキーイングを披露せねばならなかったことだろう。
「日本のスキーヤーが、日本の夏にやって来て滑れば、さぞ愉快なことでしょう」
彼は何度も言って、盛んに宣伝する。何のために私を丸一日がかりで、この辺一帯を案内するといったのか、初めはよく分からなかったが、私の肩書がトラベルライターだったので、さぞかし宣伝になるであろうと、社長じきじきにやって来たわけだ。
雪に覆われたトンガリロ国立公園はともあれ、今だって素晴らしい光景である。山には万年雪があって、突き抜けるような青空に映えて、一枚の絵のように美しい。
シャトーはもともと富豪の避暑用別荘であったのを、ニュージーランド観光局が買い取って、夏は避暑を兼ねて高原のゴルフ、冬はスキ―客用に使われている高級ホテルになっている。
「見えますか。この方角の雲の中に雪を被った山があるが……」
彼は指差して言った。
「富士山に似ているでしょう。別名ニュージーランド富士ですよ」
確かに南ないし南東の方角から見ると、富士山そっくりだが、東北の方角から見ると、二子山だった。
エドワルド君はニヤリと笑ったが、これも宣伝文句なのか、スラスラと話してくれた。その山は、標高2290メートルの“ウンガルホエ”という山であった。