パース近郊の森林火災
12月から3月までの夏季の間、オーストラリアを旅行していると、必ずどこかで煙が上がっているのを見かける。とにかく、平原や森林の火事は多い。
さんざん平原や森林の火事を見せつけられた後、4月下旬に西オーストラリア州都のパースを訪ね、近辺を観光した。
私は、西オーストラリアの観光ガイドの勧めで、パースから南のアルバニーに森林公園を見るために飛んだ。そして、スタンリー山脈中の国立森林公園を見学した。
その帰り道は飛行機ではなく、農業技師のドナルドの運転で、アルバニーからパースに向って車を走らせた。その途中に山火事の煙に巻き込まれた。視界が悪くてクラクションを鳴らし、ライトをつけて走る。対向車も同じようにして行き違う。
「ドナルド、俺たちは火事に巻き込まれたな」
私は心配げに彼を見たが、彼はちっとも慌てない。
「大丈夫だ。この地域は森林管理係が火をつけて焼いているのだから」
私はドナルドの説明がよく理解できなかった。
「なんだって!放火するんだって?」
「そうだ。放火して、雑草や落ち葉を焼き払うんだ。そうしておけば大火は免れるよ」
「だって木まで燃えてしまうだろう」
「いや今は秋だ。今なら放火しても夏の乾燥季のようには燃えないで済むんだ。成木にはほとんど害がないよ」
「他に森林火災防御の方法はないのか」
「今のところないね。火には火をもって対処する。現代文明では防ぎきれないんだよ」
オーストラリアの1月は盛夏で、摂氏3,40℃にもなり乾燥している。木がちょっと擦れ合っても発火しそうな状態になり、火事が多い。
全オーストラリアを覆っているユーカリの一種のガム・ツリーは、比較的硬質で成長が遅い。何十年もかかってやっと成木になった頃には、大抵数度の火事で全木が丸焼けの憂き目に遭っている。
しかし、太古の昔から自然発火の火事が多かった関係で、この木は火には案外強い。成木ともなれば、火が風に吹かれて通り抜け、葉が焼けたくらいでは決して枯れない。二ヶ月後には新芽をふきだす。
そのガム林も、1月の乾燥季に燃え出すと手の付けようがなく、消火法はまったく原始的で、風向きが変わるが、燃え尽きるかしかないことには、策がないそうだ。
パース近くまで戻った夕方、またもや森林火災を見かけた。もううす暗くなり赤々と燃え、灰色の煙が高く舞い上がっていた。私はそのことをドナルドに告げた。
「アッ、ソウ、もう3日ほど前から燃えているんだよ。しかし害はないよ」
彼はケロリと答えた。どうして消さないんだろうと思ったが、それは全く日本人的感覚なのだと思い、質問は取り止めた。
雨の降らない地域は日本の2、3倍の面積。森林は日本の7、8倍もの広さ。だからか日本の半分くらいの広さが燃えたって慌てることはないのだろう。
パースに戻った翌日パース大学を見学し、学生たちに山火事のことを話したが、あまり関心を持たなかった。オーストラリアでは森林火災は日常的なことで、珍しいことではなかった。