古き良き時代のオセアニア オーストラリア⑯

巨岩エアーズロック登頂

 世界一大きな褐色の一枚岩エアーズロックは、周囲8、9キロ、高さ350メートル、外表面積4.9平方キロメートルもある巨大な砂岩である。

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夜明けのエアーズロック

 私は、まだ薄暗い6時前に起き、アンセット・ロッジの庭に出た。眼前にゴムマリのような岩があった。撮影するには近すぎるので、ロッジの裏のゆるい丘に急いだ。

 早起きしたのは私だけではなく、エアーズロックを見物に来た観光客のほとんどが、早朝の色の変化を見ようと起きていたが、寒いのですぐ部屋に戻る者が多かった。

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ロックの表面が崩れた跡

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ロックの表面のくぼ地

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ロックの表面に開いた穴

 寒いと言ってもここは南回帰線の真下にあって、熱帯に片足突っ込んでいる。しかし、大陸のど真ん中、昼間は暑いが、太陽が隠れると冷えやすい大地が、冷え、摂氏5、6℃まで下がる。

 やがて地平線が茜色に染まり、ロックは朝日に映えて赤褐色の燃えるように映えた。その昔、原住民が神が宿っていると信じていたこの巨岩が、平原に赤く燃えるとき、まさしく神がお出ましになったかのような不思議な現象である。

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朝日に赤く染まったエアーズロック

 この岩山は、風が吹けば、風穴がまるで嵐のメロディのように激しく鳴る。雲がやってくれば半分は雲隠れし、大雨が降れば全体が滝になり、小雨なら何十何百もの白糸の滝が生じる。原住民たちはそのたび、神の心を告げられたと一喜一憂したとのこと。

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ロックの岩穴の壁面に描かれている壁画

 この巨岩の一角に、年中枯れない小さな湖があり、近くの岩穴には原住民の住居跡があって、壁画がたくさん描かれている。同心円は人間の生命を、木は家系を意味し、トカゲやカンガルーは人間の再生を意味しているそうだ。彼らは名前に、動物名をつけていたが、自分と同名の動物を喰うことはできなかったそうだ。

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エアーズロック西側の登り口

 私は、この見た目には神秘的な巨大な岩山の西側から、午前9時45分に登りはじめた。この岩山に登ろうとする者は数多い観光客の中で23名いた。最低16歳、最高52歳で多くは女性であった。なんでも登り口から頂上まで、アデレードの18歳の青年が15分とかで登ったのが記録だそうだ。距離にすれば千五、六百メートル、途中には鎖のついたところもあるが、ちょっと足を踏みはずせば、大地まで転げ落ちる。これまでに数人が命を落としたそうだ。

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鎖のあるところ、ここから手を引いて一緒に登ったエリザベスさん。

 23人のうちから落伍者が現れはじめた。若い女性の一人が、鎖を伝って登っているうちに怖くなったのか悲鳴をあげ、下からバスの運転手たちが登ってきて、手を引いておろした。落伍者の全てが急傾斜を登りきることができずに断念した。私は、ここから途中で知り合った28歳のエリザベスさんの手を引いて登る。褐色の岩肌は上り下りが多かったが、7合目くらいから傾斜は緩やかになった。

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頂上近くから大平原の北側を見る

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ロックの上では白泉に沿って歩く

 結局9名が頂上までたどり着いた。中には女性が4名いた。頂上は風が強く肌寒かった。空は青く、大地は緑が少なく、褐色の大地がそこかしこに見えていた。

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一緒に登ったエリザベスさんは、頂上まで登れたことを泣いて喜んだ

 地平線がぐるりと見渡せた。地球は確かに円い。西方に回教寺院のドームのような岩山が5、6個集まっているオルガ山が見えた。

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西側に見えるオルガ山

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後で訪れたオルガ山の中

 頂上には石が積み重ねてあった。そしてそこにブリキの長方形の箱が置いてあり、中にメモ帳が入っていた。

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エアーズロックの頂上に立つ筆者、遠くにオルガ山が見える

 「1969年4月9日午前10時35分登頂す。森田勇造」と記しておいた。

 大陸のヘソような巨岩の背で風に吹かれていると、大海原を波風切って突き進んでいるような錯覚を覚えた。

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詳しくは拙著をごらっばれ