古き良き時代のオセアニア㉓ ニュージーランド
タスマン氷河
ニュージーランド南島の中央部に、標高3,765メートルもあるマウント・クック(クック山)がそびえている。万年雪と氷河を従えたクック山の周辺には、大小たくさんの氷河があるが、タスマン氷河が一番大きい。
私は、他の観光客と共に、タスマン氷河の途中から歩いて登った。寒いだろうと厚着をしていたのだが、氷河上は比較的暖かく、ジャンパーを脱いで腹に巻き付けた。
氷河は表面を砂礫に覆われているが、そのまま露出しているところもある。大きな石が太陽熱を吸収して、氷河を溶かして穴を作っている。そこに溜まった水は空のように青い。
氷河には谷もあれば丘もある。川もあれば小さな湖もある。ときどき足の下の方からズーズーという振動が伝わってくる。そのたびに氷河表面の砂礫が、ザーッと滑り落ちたり、人頭大の石が転げ落ちてドスンと音がする。
私が歩いて登っているタスマン氷河は、長さが29キロ、深さが300メートル、幅が1500から3000メートルほどで、60年間に氷河の表面が運んできた砂礫の堤の高さは60メートルに及ぶ。1日に約23センチ移動するそうだ。氷河の両側は、氷河自体が削り取った黒褐色の岩肌になっている。
もし、この氷河がすべて溶けてしまえば、高さ数百メートルの絶壁ができる。この氷河は海には通じていないで、タスマン氷河が砂礫を運んで自然にできたブカキ胡に通じている。
私が氷河を登っている途中、いくつもの氷造沕があった。それらすべてが光線をはじき返すので、輻射熱が強く、肌がこわばった。
氷河上の小川の水は冷たく、音高く流れていた。遥か下のほうからズズーと不気味な音が響く。
もうかなり登って、表面に砂礫が無くなり、青白い氷ばかりになった。3キロくらい登ったところから引き返した。氷河の中流の堤の上で迎えのマイクロバスが待っていた。
翌日、私は単発機のセスナにスキーを付けたスキー・プレインで、このタスマン氷河の最上部に降り立った。
そこは標高2000メートルの雪原で、表面2、30センチは残雪。その下には、氷河のうぶ声を上げた氷がある。氷河は今も移動しているので、私が今立っている白い世界は、50年後には、昨日私が立っていた氷河の中ほどに達しているだろう。
私は、残雪を握って雪玉を作り、雪原の下の方に向けて投げた。緩い傾斜になっているので、どこまでも転げ落ちていった。一緒に飛来したアメリカ人の老歯科医師夫婦も、面白がって雪玉を作って投げた。
雪原には3、40分滞在して、スキー・プレインは、羽ばたくように飛び上がって、タスマン氷河の下流に向って飛んだ。氷と雪と岩山の世界は、雄大な眺めであった。