古き良き時代のオセアニア㉒ ニュージーランド
ダニーデンの学生たち
私が、ニュージーランド政府観光局の招待で、オーストラリアのシドニーからニュージーランド南島の首府クライストチャーチにやって来て、まず目についたのは、中古車が多いことと、バスが前後に乳母車を掛けて走っていることだった。
ショーウィンドウの商品もオーストラリアに比べると、はるかに少ない。どことなく田舎町の雰囲気が感じられた。
クライストチャーチからバスでダニデインの町まで南下した。モーテルに泊まっていると、地元の新聞社から聞いたと、オタゴ大学の学生3人が、日本のことを知りたいといって会いにきた。彼らと親しくなって、大学の新入生歓迎パーティに招待された。
オタゴ大学のパーティは、ジュース、ビール、ワインなどが売られ、広い体育館には、動きが取れないほど学生がいた。
響き渡るビートメロディに乗って踊っているのだが、他人のお尻が邪魔で立ちん棒のまま肩をゆすっているだけの状態。相当アルコールが入っている様子で、2、3年生は新入生をガールフレンドにつかまえようと目の色を変えて捜している。その様子を見ていると、いずこも変わらじとおかしくなった。
私は、そんな傍らの喫煙室で学生たちと話したのだが、ほとんどの学生が、卒業すればヨーロッパに行きたい、オーストラリアに行って働くと言っていた。
ニュージーランドはオーストラリア大陸とは異なって、山あり川あり、平野あり、湖ありで、世界でも有数の農業国であり、経済的にも安定している。
ダニデインのあるオタゴ州は、羊と牛の放牧が盛んだ。多くのマトンや牛肉、羊毛が、ヨーロッパ諸国や日本に輸出されている。
学生たちは、未だに世界一の強国は英国だと言っていた。オーストラリアに憧れるのに、オーストラリアより生活程度が高いと思っている。
「ニュージーランドは世界一豊かな農業国です」
「でも地球の果てだからねえ。俺はできたらヨーロッパに住みたいよ」
誰かがポツリと言った。それは周囲に波紋を呼んだ。
「平和だ、幸福だ、それはいったい何なんだろう。俺の今の生活が幸せなんだろうか・・・・」
「地球の端から大声で叫ぶか」
「何を叫ぶんだ。メエー、メエーとでも鳴くか。そしたら羊が同調し、さぞ大きな声になるだろうよ」
彼らの会話はなおも続いていた。ビートメロディに浮かれて踊る若者たちの様子は、いずこも同じだが、彼らが、太平洋のずーっと南に浮いている島に住んでいるという、中心からの距離感を意識していることだけが違っていた。それは、羽根が完全に退化して飛ぶことのできない、ニュージーランド特有の鳥“キウィ”に象徴されていることで、「I am kiwi」と言えば私はニュージーランド人ですという意味をなしている。