古き良き時代のオセアニア オーストラリア㉑

原始郷への旅

 古いものと新しいもの、それはどこの国でも入り混じって共有しているが、オーストラリアでは、文明と原始がより鮮やかなコントラストを描いている。

 それはシドニーのモダンなオペラハウスと、北部特別区のアーネムランドに代表される。アーネムランドは、原住民が政府から自由行動を認められている唯一の大地。と言うよりも、政府の力がまだ及んでいない地域。私は、そこを探訪する3泊4日のバス旅行に参加した。

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パインクリークでの昼食休憩

 5月19日早朝、特殊装置を施した中型のバスはダーウィンを出発し、アリススプリングスに向かう内陸道路を南下した。パインクリークで昼食をとった後、ここから東方の小道にそれ、いよいよアーネムランドへの旅が始まった。

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ガム・ツリーの林の中、車の轍の跡を進む

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高さ7~8メートルもある巨大なアリ塚

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野生化した水牛と林立するアリ塚

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橋のない川を渡る

 ガム・ツリーの林の中を縫って走る道沿いに、大きな褐色の蟻塚があった。ドライバーのジムが突然にブレーキを踏んだ。大きなゴアナが道を横切っていた。

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ガム・ツリーの林

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途中に見かけた大蛇

 道がだんだんひどくなってバスが激しく揺れる。いや道なんていうものではなく、決壊や流土が激しく、デコボコだらけの轍の跡なのだ。

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所々道ができていたが川に橋はなかった

 午後3時、幅3メートルくらいの小川で、後輪が空転して進めなくなった。約1時間半もかかってやっと脱出。その30分後は、四輪駆動でないバスは、川床の砂に埋もれてまたもや前進できなくなった。

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狭い小川で車体の後部がかかり、1時間半もかかってやっと進めた

 乗客は女性3人、老夫婦、私と英国からの大学生、シドニーからの男の8人なのだが、手伝えるのは男3人だけ。

 時間はどんどん経ってゆくが、なかなか脱出できず、7時半頃には暗くなった。私たちは午後5時までには、ジムジムクリークのモーテルに着く予定であったが、進むことができず、午後9時頃食パンと川の水で夕食をした。皆バスの中で寝ることになったが、私は1人用のテントと寝袋を持っていたので、ジムが焚火をしている側にテントを張った。

 翌日、午前9時20分、昨夜助けを求めて助手が頼みに行ったカトル・ステーションから2台の四輪駆動車が来て、やっと川床の砂地から脱出できた。

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川床の砂地に車輪が埋もれたバスを弾く四輪駆動車

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四輪駆動車にひかれてやっと脱出。

 午前10時半、ジャングルを切り開いた緩い丘に、昨年で来たばかりのプレハブ住宅のような移動式モーテルのあるジムジムクリークに着いた。まさしく原始時代の地に、自家発電によるルームクーラーのある天国のような部屋に入った。文明の利器は驚くほどの価値を発揮している。

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ジムジム・クリークの湖

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大きなパーチ(スズキ)を釣り上げた湖

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オーストラリアにいるワライカセミ

 翌日の5月21日早朝、ジムジムを出発し、文明と非文明の境である東アリゲータに向かった。 

 やがて湿地帯を左側に見ながら走った。湿地には黄色い小さな花をつけた水ユリが1面に咲いており、実に多くの野鳥がいた。

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湿地帯の水百合の花

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湿地帯の大きなガムの木

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広い湿地帯

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湿地帯の野鳥たち

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飛び交う野鳥の群れ

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各種の野鳥

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名も知れぬ野鳥

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水辺の野鳥たち

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湿地でえさを求める野鳥

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立ち入り禁止の野鳥保護区

 私たちは正午前に東アリゲータに着いた。川幅は約80メートル。海岸から65キロも奥地に入っているのに、潮の干満によって水面が上下する。

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アリゲーターの手前にできている商店

 我々はこの川を渡ることはできない。川向こうには何百、何千人いるかその数はまだ不明だが、現代文明とはあまり関わりを持たない原住民が住んでいる。

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煙草を口にしている原住民

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言葉は通じないが近くまで来た原住民

 岸辺には、「文明人はこれ以上入ってはならぬ。法を犯した者は厳罰に処す」という、政府の大きな立て札があった。 

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川向こうにわたって、こちらを見つめて手を振る原住民の子供たち

 しかし、衣服を身につけた原住民の子供たちはこちらに来て、川沿いの粗末な茅葺き小屋の商店で、パンや麦粉、砂糖、塩、それに肉の缶詰、缶ジュースなどを買って、荷物を頭上に載せて急いで帰っていった。

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子供たちが渡って間もなくから、水かさが増して渡れなくなった。

 私たちが訪れた時は丁度干潮時で川を渡ることができた。買い物を終えた原住民たちは、文明の地から逃げるようにして、彼らの自由な地にたどり着いて、対岸から我々を振り返っていた。あっという間に潮が満ち、川の水が増えてもう渡ることは出来なくなった。

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アーネムランド、ジムジム・クリークの夕日

 我々は、夕方ジムジムクリークに戻り、アーネムランド探訪3泊4日の旅は終わった。