地球へめぐり紀行

新制中国の望郷編

内蒙古からチベット7000キロの旅⑰ 砂漠を緑化する夢

 砂坡頭(さばとう)の山荘は、嗚き砂で知られた砂山のふもとの、黄河がたいへん狭くなって、川幅150メートルくらいの岸辺にあった。山荘から見上けると、百数十メートルも上に鉄道の駅がある。観光客たちは、嗚き砂の斜面を駅からすべり下りる。以前は、砂が斜面を流れ落ちるとよく音が出たそうだが、今では客が多いせいか、鳴ってはくれない。

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砂坡頭の鳴き砂の斜面

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テンゲル砂漠

 私は、内蒙古オルドス地方のクプチ砂漠で鳴き砂の音を聞いたことがある。斜面の砂を押し流すと、ズーン、ズーンとか、ブー、ブーと鳴るのである。それは、熱い砂が表面を流れ、その下の温度の低い砂層との摩捧音か反響するのである。しかし現地の人びとは、古くからの伝説を信じていた。

 

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テンゲル砂漠

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砂漠のくぼ地に張った野営

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砂漠に伸びた筆者の陰

 「7月7日の夜、オルドス王の廟で、たくさんのラマ僧が念仏を唱えていると、強い風が吹いて砂嵐が起こった。風はなかなかやまず、砂が一夜のうちに、僧もろともその廟を埋めてしまった。砂山が鳴るのは、廟の中で読経する僧の声なのである」。

 砂に埋まった寺の話は、中国の西域には珍しくない。むしろよく耳にする。それほどに、乾燥した内陸での砂の威力は、水に勝るとも劣ることはない。

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風によって作られた波型の表面

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大きな砂丘

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砂漠に生えていた植物の根は3~5メートルも深い

 「水を征する者は天下を征する」

 中国の古い諺である。黄河揚子江など、長大な川とともに生きてきた人びとは、水には果敢に挑んできた。しかし、砂漠の砂を征しようという話を聞いたことがない。ところが、ここ砂坡頭にある中国科学院の砂漠研究所では、その砂との戦いに挑み、たいへんな成果をあげている。

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白い砂

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砂丘の上に立つ撮影隊

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テングリ砂漠をラクダに乗って進む探検隊

 砂坡頭は、大いなる黄河が、有史いらい砂漠とがっぷり四つに組んで戦いつづけている地点である。風が吹くたびに無数の砂が黄河に襲いかかり、ややもすると川幅を狭められ、苦境に立たされることもあったが、水の威力で押し流し、背水の陣でなんとか守り通しているのである。そのかわり、年ごとに川の岸は背を伸ばし、今では100メートルも高くなっている。偉大なる黄河でさえ、喉元を締められ、苦しみ、悶え、身を大きくくねらせ、白波を立てて精一杯努力しながら流れつづけている。赤い砂や黄色い砂を大量に飲みこんで流す黄河は、その名のように水が黄褐色に色づいて、きれいな水とはいえないが、一時も休むことなく流れつづけている。水が勝つか砂が勝つか、大自然の営みの中で、天下分け目の戦いは、まだまだ決着はつきそうにない。

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ラクダの上から撮影した筆者とラクダの陰

 砂が群なす砂漠を征しようという夢は、アフリカ・アジア・アメリカ・オーストラリアの各大陸の人びとが、もうずいぶん昔から持ち続けてきた。水と砂が最も激しく戦っているこの地に、砂漠研究所を設置した中国の人びとの征服に対する熱意たるや、なみなみならぬものがあった。そしてついに、世界で最も効果的な方法を、この砂坡頭で発見したという。

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線路沿いの砂地の斜面で、一メートル四方に麦わらを敷き詰めた実験場所

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砂漠地帯に麦わらを敷き詰めて緑地化した場所

 その方法とは、砂地に1辺1メートルの四角い枡型の溝を作って、麦ワラや稲ワラを埋めることである。ごく簡単で容易なことのようであるが、これまで知られていなかった方法なのである。ワラを埋めた四角型を、何千何万、何億個と作ると、砂の流れを防ぐのに効果的だという。 中国では、これまでにいろいろな方法が試されてきたが、いずれも効果的ではなかった。ところが、軌道の側にワラを敷きつめることによって砂の流れが止まり、しかも数年後にはそこから草や樹が生えた。研究者たちはこれに目をつけ、改善に改善、工夫に工夫を加えたのが、この1辺1メートルの枡型の溝にワラを埋め込む方法であった。

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砂漠に麦わらを枡形に敷き詰めた場所

 砂坡頭の線路沿いに500町歩ほどの砂地が孤立してある。いまこの砂漠をかの方法で緑地化する計画が進んでいる。10年後には、草や樹が生え、すばらしい緑地公園になるそうだ。もし成功すれば、世界の砂漠地帯の多くを緑地化することができる。