地球へめぐり紀行

新制中国の望郷編

内蒙古からチベット7000キロの旅㉘ ツァイダム盆地の植物と刑務所

 9月8日の夕方、パンテンシャンという村につき、かつてチベットのパンテン・ラマの公館であったラマ教寺院の庭にテントを張った。この寺院のそばの土の家に、もと僧であった66歳の蒙古人がいた。彼は、1959年に侵入してきた解放軍に追われて、この寺院から逃げた。その6年後に帰り、今では結婚して4人の子供がいる。

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パンテンシャン村の並木道

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道沿いの用水路

  この村は、もともと蒙古族の村であったが、解放後は漢民族の村になった。寺院は文革中に破壊されつくしたが、昨年から再建され、いまは寺院内の壁画を、ラサの仏画師に描いてもらっている。

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かつてパンテン・ラマの公館であったラマ教寺院

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寺院の屋上にある動物像

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寺院の壁画を描くラサの仏画師mm

 パンテンシャン村をさらに西へ向かうと砂地で、私たちはすでにツァイダム盆地の荒野に入っていた。ツァイダムとは蒙古語で「塩沢」の意味であるが、この盆地は、北を阿爾金(あるきん)山脈と礽連(きれん)山脈、南を崑崙(こんろん)山脈に囲まれ、面積は25万平方キロで、標高が2,600~3,000メートルもあり、典型的な高原盆地。盆地には湖や沼地が多いが、ほとんどが塩湖である。

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砂地に生えるクコの木

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クコの実

 ツァイダム盆地にはいろいろな植物か生えている。漢語で“コーチ”、チベット語で“シノナーロン”と呼ばれる枸杞(クコ)の木が赤褐色の実をつけている。この実は関節炎に効く漢方薬の王者であり、このへんの特産の1つである。漢語で“白刺果”、チベット語で“ツェルマーシー”という白い刺のある樹の実は、砂漠のグミともいえるもので、赤色に熟した実は甘く、汁は少し酸味かある。卵型で緑色の種子のまわりは甘くてねばっこく、赤い皮は少し苦みがある。この実は、乾燥した荒野では水分補給に充分役立ち、食料にもなる。

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水分の多いツエルマーシーの卵型の赤い実

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砂漠のグミ”ツエルマーシー”の実

 ほかには“蒿子”と呼ばれる、よもぎのような香りのする背の低い草かあり、チベット語では“ネ”と呼ばれていた。ここの草の大半が、乾燥のために葉肉が厚くサボテン化していたり、ドライフラワーになっていたり、花弁の先にトゲがあったり、たんへん不思議な形状の植物が多い。

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砂を取り込んで小山を作って生える灌木

 しばらく西へ走り、標高3,100メートルの脱土山を越えたが、草が紅葉し、全山が紅く燃えていた。

 やがて平地に出て、ふたたび大平原を走る。南には崑崙山系のボルハンブタ山脈がつづき、北は一望千里の荒野である。道沿いには100メートルごとに距離数表示があり、1キロごとに石の標識があった。道と平行して、電柱が並んでいる。植物の少ない、まったく無味乾燥の大地は、自然の死骸のような、退屈な風景である。

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一望千里の荒野を走る道

 夕方6時半ころ、平原の中の中継地になっている諾木洪(ノムホン)についた。道から5~6キロの砂漠の中に緑地帯があった。それは東西に約10キロにも及んでいた。そこは立入禁止であり、撮影も禁止された。そこが一体どういうところなのか、尋ねてもなかなか答えてくれなかったが、やっとのことで、ツァイダム刑務所であることがわかった。

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砂と礫(小石)に覆われた無味乾燥の大地

 中国全土、とくに東部の長春、北京、南京、上海、抗州、広東などからの政治犯や重刑の犯罪人が投獄されているそうである。1966年の文革がはじまって以来、東部から多くの政治犯が送りこまれたという。

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ノムホンからゴルム市への道

 それにしても周囲が砂地の広い荒野なので、逃亡は不可能なのかもしれない。今も多くの犯罪者が投獄されているそうだが、文革中のように政治犯が多いわけではない。むしろ今は政治犯が少なく、殺人者などの重犯者が多くなっているとのことだった。しかし、青海省甘粛省などではあまり知られていない刑務所で、やはり東部からの犯罪者が多いのである。外国人は立入禁止で、遠くからの撮影もできない厳しさだった。