地球へめぐり紀行

新制中国の望郷編

内蒙古からチベット7000キロの旅㉗ 茶卡(ツアカ)は「塩の税関所」

 ドジヤさんたちに別れを告げ、午前9時半に茶卡(ツアカ)に向かって出発した。黒馬河平原の東方に見える山頂にはうっすらと雪があった。まだ9月7日なのだが、山頂はすでに初雪である。青海湖を見下ろしながら、大きな岩山の道を上る。峠に「橡皮山、3,705メートル」と標記してあった。

 峠を越して下ると、道沿いに仏塔である白いチョルテンがあった。しばらく下ると大水橋かあり、山には草も樹もなく、乾燥した空気か目に見えるようである。

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高原を移動するチベット族

 この辺は乾燥しているからか、平原につむじ風がたびたび発生した。大地から立ち昇るかげろうのせいで、水や人、家畜などの蜃気楼が見える。

 わずか78キロしかなかった茶卡の町に着いたのは午後2時だった。この町の軍の施設で給油している時、砂埃を巻き上ける竜巻が襲ってきた。ほんの五秒くらいであったが、車かグラグラゆれ、すさまじい勢いであった。

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タブスノール塩湖

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塩湖の表面

 茶卡の近くにタブスノールと呼ばれる塩湖がある。真っ白い純粋な塩が層をなしている。なめると甘く感じた。中国大陸の乾燥地帯には、ところどころにこうした天然の塩が存在している。白い塩の上を歩くと、雪のように靴底にくっついて歩きにくかった。見わたす限りの塩湖では良質の塩がとれ、青海・甘粛の2省に必要な食塩を永遠に供給することができるそうだ。

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塩湖から掘り出した塩の新しいボタ山

 茶卡は、ツアカと発音するチベット語を漢字で表記したものである。ツアは「塩」のことであり、カは「税関」または「関所」という意味である。だから、ツアカとは、もともと「塩の税関所」のことであったが、今では町の名称になっている。

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灰色のボタ山は古く、白い山は新しい

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塩を運ぶ貨車

 町はずれの平原に内蒙古で見たと同じアンパン型の移動式住居ゲル(包)がー張りあった。不思議に思って訪れた。

 39歳のネリヨさんが気軽くゲルの中に案内してくれ、お茶をサービスしてくれた。彼女は蒙古語とチベット語しか話せなかったが、中学生の娘は漢語を話した。主人は家畜を追って平原に出て不在だったが、奥さんと息子と娘の3人がいた。

 彼女の一家は、夫婦と祖母、子供4人の7人家族で、馬十頭、ヤクと牛35頭、ラクダ5頭、羊600頭を所有している。今の中国ではかなり豊かな一家である。上の2人の息子は大学に通っている。1人は西寧に、もう1人は北京にいる。ネリヨさんは、明日から北京に遊びに行くそうである。

 異郷の地で逞しく生きる蒙古族一家の幸せそうな暮らしぶりを聞いて、なぜか安心させられた。というより、あの蒙古高原の人びとが懐かしかったし、同郷者を訪ねたような気分でもあった。

 茶卡は大きな盆地にあり、南の方へ10キロも真っすぐな道が続いていた。疲れもあってか、ランドクルーザーの前席で、車のゆれに身をまかせているうちに、身体か風に舞い上がるように軽くなり、いつしか夢の世界に入っていた。

 車かガタンとゆれて目が覚めた。ほんの数分の白日夢だった。もう少し続けて夢の世界にいたかったが、残念なことをした。それにしても、殺風景な自然の中で、全身が乾燥と土埃の汚れと疲労にボロボロになっているのに、天女を抱きしめる夢を見たせいか、すっきりした気分になった。

 標高3,560メートルの峠を越すと、ふたたび荒野が続いた。山に樹なし、地に動物なしの自然環境は、見ているうちに飽きてくる。

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標高3,000メートル以上の荒野

 道はどんどん下り、夕方、ツァイダム盆地の入口にある夏日哈(シャラグ)についた。ここには漢人の農民が住み、麦の刈り取りをしていた。灌漑用水路が張りめぐらされ、水が流れているが、畑以外の大地は砂地である。村の外は砂漠で、砂丘が続いている。

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シャラグ村近くのラマ教寺院

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高原にできた漢民族の新しい村シャラグ

 道沿いには楊樹が植えられ、夏日哈から20分ほど走ると緑地帯が広がっていた。そこが旧名チヤハンウスと呼ばれた都蘭(とらん)の町である。これまでにもあったが、内蒙古青海省では、漢民族化、漢文化がすすみ、人名や地名が漢名になっている。

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都蘭近くにいたラクダの群れ

 西寧から西南西へ約450キロ走ったツァイダム盆地の東端にある古くからの町が都蘭である。標高3,200メートルの都蘭の招待所で、久しぶりに風呂に入った。しかしお湯が少なかったので身体か十分に温まらず、風呂を出たあと寒くなり、水筒に熱い湯を入れて湯タンポにして寝た。