地球へめぐり紀行

新制中国の望郷編

内蒙古からチベット7000キロの旅㉖ チベット系牧民の生活

 9月5日の午後、青海湖南岸の黒馬河(こくばがわ)村まできた。この村の南西の一部が平原になっており、多くの牧民たちが黒テント“バー”で生活している。私たちは、牧民であるドジャさん(74歳)一家を訪ね、2泊3日の許可を得、生活を共にすることにした。

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黒馬河村

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黒馬河村の漢方医

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黒馬河村で見かけた正装のチベット婦人

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黒馬河近くの湖岸に作られたラツイ

 ドジャさんのテントは、ゆるい丘の北麓にあった。家族は夫婦と息子夫婦、それに孫が4人で、三世帯同居の一家である。

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黒馬河の平原に張られたチベット族のテント

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平原に放牧されたヤク

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ドジャさんのテント

 ヤクの毛で織る“レー”は、幅20センチ長さ12センチが一体になっている。レーは、縦糸の端を棒に結び、手前から順に横糸を入れて織ってゆく。1人の女性が、朝から晩までかけて約5メートル織ることができる。黒テントは、長さ6メートルのレーを縫い合わせてつくるのだが、大きいもので片側20枚、小さなもので10枚と決まっている。ドジャさんのテントは、両方合わせて40枚のレーを縫い合わせた大きなものである。 

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”レー”と呼ばれる、ヤクの毛で織る織物を作る女性

 テントの中は16畳ほどの広さで、屋根の中央が開いている。その下に土製の長いカマド「クゴワス」があり、乾燥した羊やヤクの糞を燃やす。屋根の中央が開いているのは、明かり取りと煙が外に出やすいためである。テントは、中央に棒を3本、前後に並べて立て、屋根を八方に張っている。

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テントの中の土で作られたかまど

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テントの中の様子

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ヤクの乾いた糞を燃やして湯を沸かす

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バター茶を作る婦人

 垂れ下かった入口のレーを押して中に入ると、右側が男性や客人が座る場所で、寝具や衣類などが置いてある。左側が女性の場で、食料や水などかある炊事場である。中央のカマドは、後方か高く、すべり台のようになっており、乾いた糞が燃やし場にすべり落ちるように作ってある。

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テントの入口で孫たちと遊ぶドジャさん

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平原に座って用を足す子供たち

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杖を馬に見立てて遊ぶ男の子

 私は右側の奥のカマド寄りに座るように指示され、寝床も同じところで、足を入口の方に向けた。女性は左側に寝る。ドジャさんは、入口に敷いた布団に、孫といっしょに裸で眠った。

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テントの中でマニコロンを回して祈るドジャさん

 9月6日の朝は冷え込みが強く、外気は零度まで下がったのか、薄く霜がおりていた。まだ薄暗い6時に、主婦のソンチージャさん(36歳)がカマドに糞を入れ マッチで火をつけた。煙がテント内に充満したが、燃えはじめると煙は消え、やかんで湯を沸かした。息子のパムータリさん(38歳)や他の大人は6時半に起床した。男たちは洗面器で顔を洗い、女たちは湯にひたした小さなタオルで顔をふき洗った。

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ゴリと呼ばれるチベットパン

 7時ごろ「ゴリ」と呼ばれるパンとツァンパ、それに「チャシュマ」と呼ばれるバター茶で朝食。子どもたちは起きっぱしに食べ、後で顔を洗う。4歳のルーザンには、お尻に「ウノゴンボ」と呼ばれる蒙古斑があった。

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用便の後始末をする婦人

 7時40分、孫のホワンクル君(17歳)とヘモちゃん(7歳)が、ヤクの背にポリエチレンのタンクを2個ずつ載せて水汲みに出かけた。

 8時ごろ、ソンチージャさんがヤクの乳を絞りはじめた。長い綱の左右につないだ母ヤクの乳をまず仔に吸わせて、乳が出はじめると引き離して搾乳をする。仔ヤクは、そばでうらめしげに眺める。ひとしきり絞ると仔ヤクが離されて飲む。これは、家畜とともに生きる牧民の生活の知恵である。

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ヤクの乳を搾る婦人
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バターを作りバター茶を注ぐ婦人

 彼女は30分ほどで十数頭の乳を絞り、その後、バターを作ったり、発酵乳を作る。8時半ごろには、6歳と4歳の孫がヤクや羊を平原に追い出して行った。私は、10時半から12時半までドジャ老人について、馬上から羊やヤクを追った。

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草原で夕食の準備をする探検隊

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チベット族は魚を食べないが、我々が食べた青海湖のうろこのない魚

 テントに戻り、シュマ茶とパンで昼食。午後は仕事がなかった。4時にお茶とパンの間食をとる。老人は夕方までテントのそばで孫たちと遊んでいた。暗くなる前に、ヤクや羊をテントの前の所定の場所に連れもどした。ヤクは綱につなぎ、羊は放置されていた。息子のパムータリさんは、地区委員をしているので、会議のため、朝出て夕方帰ってきた。

 夜は近所の牧民も集まって宴会がはじまった。めったにないことで、女性は青海チベットの正装をし、華やかである。食物は羊肉の水煮と内臓料理。酒は、麦で作った地酒のチャン。

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夜の宴会にやってきた近所の女性たち

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正装したソンチージャさん

 酔うほどに歌が出た。リズムは日本の民謡の木曽節や馬子唄に似ている。彼らは専門に習ったわけではないが、音程がしっかりして、声が大きく美しい。男はみな歌手である。

 牧民は夜が早い。普通は9時過ぎると横になるそうだが、11時すぎまで歌った。私は、煙とシラミに悩まされつつ、酔いにまかせ、布団にくるまって寝入った。

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黒馬河湖岸のラツイのそばに立つ筆者