ユーラシア大陸横断鉄道の旅⑥ ソウル→汶山

 私は、その日のうちに韓国最北端の駅「汶山」まで乗り継ぐ予定になっていた。出発時刻は午後5時。朴さんの案内で急いで汶山行きの普通列車に乗り換えた。

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汶山行きのプラットホーム入り口

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汶山行きの汽車

 車両は見るからにローカル線らしく、扉の開閉もままならない。通学・通勤の利用客が多く、立っている人もいる。近郊に住む人だろうか、2人がけの座席に3人でかけ、おしゃべりに夢中である。車内販売もあり、パンやピーナッツなどを食べている人もおる。セマウル号の車内とはちがって、こちらは素朴で賑やかだ。昭和30年代の日本のローカル線のようで、初めて汽車に乗ったときのことを思い出す。

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汶山行きの車内

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車内販売

 私と朴さんが座っている席に、50代の女性が割り込んできた。朴さんが、私は外国人であると説明すると、彼女は私を見てニイッと笑って立ち上がった。その表情は明るく愛嬌があった。

 私たちが日本語で話していると、後の席に座っていた60代と思える男性が身を乗り出して、「私は大阪に住んでいたことがある」と、日本語で親し気に話しかけて来た。日本には戦前から朝鮮半島の人々が多く住んでいたが、今でも大阪を中心に70万人もいる。

 「これは昔の京義線だよ。ソウル(京城)と北の新義州の間をはしっていたんだ」

 彼は得意になっていろいろ説明してくれた。乗客の中には、彼の話す日本語に耳を傾けている人がいたが、別に反感はなかった。

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汶山行き車内での筆者

 ソウルから汶山までの線路区間は約46キロ、1時間10分の旅である。この線路はかつて京城と呼ばれていたソウルと、北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)と中国(中華人民共和国)との国境の町、新義州の間の460キロを結んでいた京義線の一部なのである。

 1950年に始まった朝鮮戦争は、1953年休戦状態になり、北緯38度線で北と南に分断されたので、汶山から1キロほど北へ行ったところで線路が遮断され、その先へは鉄道では行けない。線路が北のピョンヤンから南へ延びてきている、北朝鮮の開城までは汶山から15キロ。ユーラシア大陸横断鉄道の旅では、釜山からリスボンまでの間で、このわずか15キロ間だけ線路上を汽車が走ることは出きない。国境の38度線を越えて北へ行くこともできないので、大きく迂回して、中国の北京経由で開城に行くしかない。

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汶山プラットホームの標識

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到着した時の汶山駅のプラットホーム

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到着した時の汶山駅のプラットホーム

 午後6時10分、田んぼの中にある汶山駅に到着した。これから先に進むには、直線距離で約8キロ先の板門店まで車で行き、南北の境界線をまたがなければならないが、国境である板門店は国連が管理しているので、自由に行くことはできない。

 私は、荷物をソウル駅に預けて来ているので、ショルダーバッグとカメラ2台を首と肩にかけ、駅前を歩いて見物した。小さな町の夕暮れで、人出もなくただ駅前に寂しい通りがあるだけだった。

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汶山駅

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汶山駅前に立つ筆者

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汶山駅から北を見る

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この約1キロ先で線路が止められている

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北の開城への線路が止められている場所 黒いビニールは朝鮮人参の栽培地

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北への線路が止められている現場のアップ

 朴さんに駅舎の前で記念撮影してもらい、足早にプラットホームに戻る。そして、6時20分発の、来た時と同じ汽車に乗ってソウルまで引き返した。

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汶山からソウルへの戻りの汽車

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汶山駅のプラットホームでの筆者