ユーラシア大陸横断鉄道の旅④ 釜山
フェリー発着場出口の前からタクシーに乗った。中央洞の市庁舎前を通って、南浦洞の映画館街でタクシーを降りた。ここで金英姫さんの知り合いのカバン屋に私の荷物を預けた。
彼女の案内で町を見て歩く。なんだか九州の長崎の街のような雰囲気だが、道の中央に座り込んで物を売る女たちが賑やかに話すのは韓国語。
屋台では、モツの煮込みやおでん、そして「キンパ」と呼ばれる日本と同じのり巻きやスルメなども売られている。珍しいのは、チルギーという葛の根のしぼり汁。グラス一杯1000ウォン(約90円)。この生臭い灰色の汁は、自然飲料で身体に良いと勧められ、この旅の道中における健康を願って飲む。
海岸の方へ3ブロック歩くと、チャガイチ市場に至る。チャガイチとは砂利浜を意味するそうなので、昔は砂浜で市場が開かれていたのだろう。ここには海産物は何でも売られているが、特に生きたままの魚介類を食べさせる店が多いのが特徴だそうだ。実際に、私は1匹5000ウォン(450円)のイイダコを生きたまま切ってタレをつけて食べてみた。口の中でうごめき、吸盤が吸いついたりしたが、なかなかの味だった。
今がシーズンなのか、赤褐色の鮮やかな色をした日本と同じホヤ貝が山と積まれていた。アジュモニ(おばさん)たちの元気な呼びかけ声が響く。チャガイチ市場は魚の臭いと買い物客と売り子の声で活気に満ちていた。
海岸通りに出ると、岸壁には新造船に極彩色の大漁旗が沢山はためき、日本の九州や四国の漁港と同じような光景が見られた。言葉は通じないし、ハングル文字は読めないが、売られている物や魚介類はよく似ている。やはり、日本にいちばん近い外国なのだ。
釜山で最もよく知られた龍頭山公園を訪れた。釜山タワーから見下ろすユーラシア大陸東端の町は、明るく活気に満ち、日の昇る勢いが感じられた。
私は、これから始まるユーラシア大陸西端への鉄道の旅を考えながら、もう20数年も前に一度訪れたことのある、終着の町リスボンの古めかしくて活気のない静かな街を思い出し、太陽の昇る東と、沈む西の町のちがいを感じていた。それは、東洋と西洋の町の有様の違いでもある。