地球へめぐり紀行

新制中国の望郷編

野生のゴリラを求めて②(1970年8月)ルワンダ

7匹のゴリラとの対面

 翌日はだめだった。新しい巣や糞を見つけ、跡をつけてみたがとうとう発見できなかった。

 3日間ゴリラ探索をしてわかったことは、午前中に発見しなければ午後は雨と濃霧でどうしようもないことだった。8月中旬には全くきまったように、午後になると海抜3,000メートルのビソケ山中腹は濃霧がたちこめた。

 乏しい体験から、ゴリラの1日の移動距離は数キロにもおよぶことがあるが、朝食の時からその直後は移動距離が小さいのでなるべく早朝に発見すればよく観察できると思い、翌日は五時半に起きて、夜明けと同時に山に入った。

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左からガイドのガシグワ ポーターのブツル 通訳のセフング

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急斜面をよじ登るガイドのガシグワ

  登っている途中で、現地人が山の中で放し飼いしている大角牛に出合った。草が揺れる度にゴリラではないかと立ち止まった。草を突きわけてグワアーと出てくるのは、1メートルもありそうな大角を2本持った牛だった。

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途中たびたび出会った大角牛

 私たちはより新しいゴリラの巣や、糞や通り跡を追って斜面に生える草の中を歩いた。私の前を行く食料を持ったブツルがその大草の中で何かを踏んづけて滑り転んだ。すると黒っぽい大地から白い物がポコリと顔を出した。それを手で掘り出してみると、ゴリラの頭蓋骨だった。骨は土で汚れていたが、食料を入れている袋の中に入れてブツルに持たせた(これは日本まで持ち帰った)。

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ゴリラの古いねぐらと糞

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ゴリラの通った跡

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ゴリラの新しい糞

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ゴリラの糞

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山で見つけたゴリラのづ骸骨

 天候はこの2、3日間どうもすぐれなかった。今日は朝から曇って太陽が顔を見せない。湿度が高く、湿気の多い地肌を踏みながら歩くのは楽ではない。

 私達は午前九時頃、もっとも新しい草や木を集めて作った巣を六個発見した。周囲には一時間ほど前に喰ったであろうセロリの皮や、喰い残しがあり、まだ暖か味がありそうな糞がころがっていて、ゴリラのカビ臭い甘ったるいような独特のにおいが漂っていた。

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ゴリラが食った野生セロリーの皮

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ゴリラの新しい糞

 いる、この近くにいるなと緊張した。ポーター達も緊張した。

 彼らが恐れて前に進まないので、自分が先頭に立って歩いた。ゴリラの通った跡がはっきりついており、新しい草が折れたり、踏み倒されたりしてその進行方向はすぐにわかった。

 呼吸を整え、静かに耳をすませて、3度も4度も咆哮を聞いた。100メートル程の距離があるようだったが、草の丈が高くその姿は見えなかった。我々は少しずつゆっくり歩いて再び小さな谷に出た。もう近くにいるはずだった。10分程待っているとかなり近くで咆哮がした。

 斜め上の6、70メートル先の草が揺れていた。そこにゴリラがいるものと、我々はもう少し上に登って、40メートル位左に進んだ所の木に登った。

 ついに野生のゴリラを7頭見つけた。20メートル程右前方の草の中に座って、まるで一家族のようにぐる輪になっているゴリラを見た。

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草むらの中にいるゴリラ

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草むらに二頭見える

 私は樹上のテッペンに立った。樹の上の枝や葉を重ねた古いゴリラの巣にカメラとテープレコーダーを置いて、しばらくじっと彼等を観察した。その間に2匹のブラックバック(若いゴリラ)が何度も立ちあがって、両手で胸を叩くドラミングの音が聞かれ、カン高い張りつめたような咆哮を聞いた。

 ポンポンと手を3度叩き、ボコン、ボコン、ボコンと胸を6、7回叩いて、10秒ほど間を置いて、ウォーウォーウォーと咆哮する。手を叩き、胸を叩き、咆哮するのはおどしているようでもあり、からかっているようでもある。私にはゴリラの咆哮が3通りに聞こえた。ウォーと長く激しく、そしてウォと短くはき出す。それにウーアーと甲高いアクセントがあまりないやつである。

 グループの中の1匹は、見張りのつもりだろうか、近くの木によじ登ってこちらを見詰めた。そして『V』の字型になった幹に大の字になって両手両足を踏ん張った格好は、愛嬌のある態度だった。通訳のセフングやポーターのブツル、ガシグアが木に登ってくると、彼等は草の陰に隠れて頭だけ出してこちらを見ていた。

 写真撮影にはまだ遠すぎるので、もっと近くの方にいこうとポーター達をせきたてたが、彼等は危険だと言って、どうしてもこれ以上接近しなかった。相手が七頭いるので駄目だと言う。仕方なく1人で登りかけたが、7対1ではどうも気持ちが悪いし、自信がない。それにまだゴリラの習性をよく知らない。

 木に登ってカメラを持った私を、木に登ってこちらを見ているブラックバックが首を伸ばして不思議そうに見ていた。こいつは物好きで、冒険好きのゴリラなのか、幹を片手でつかんで、片手片足を宙に浮かせてプランプランやってみたり、頭をゴシゴシかいてみたり、枝の間で大の字になって見せたり色々なことをする。まるで私をからかっているようでもあり、私の真似をしているようでもあり、長い手でおいでをしているようでもある。が、私に向かって帰れ帰れと手を振っているようでもあった。

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木俣にいるゴリラ

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草や木の陰に数等のゴリラが見える

 ゴリラを発見してから40分もたった10時半すぎにはガスがたちこめ始めた。写真撮影にあせった私は何とかうまく撮影しようと、邪魔になる枝をグイと引き寄せた。それを木の上で見ていたブラックバックは木から飛び下り、「ウーアー」という咆哮を一声残して去った。と同時に他のゴリラも上に登り始めた。

 初めは何でゴリラがあんなに急いで木から下りたのかわからなかったが、かなり大きな枝(直径6、7センチ)をグイと引き寄せたので、私が怪力の持ち主だと思ったのか、攻撃されると考えたのか、とにかく大きな枝を引き寄せたのが原因のようだった。

 長い興奮からさめて周囲を見回した。自分が霧に包まれたアフリカの大自然の中にいることを今更のように感じた。もうこれ以上ゴリラの棲む原始郷を自分勝手に歩き回ることはよそうと思いながら樹を下りた。

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ウガンダの動物園で撮影した若いゴリラ

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ゴリラの新しい寝場所を見る筆者