地球へめぐり紀行

地球へめぐり紀行

ユーラシア大陸横断鉄道の旅 編

東アフリカの野生動物たち(1970年7月)

 東アフリカにあるナショナル・パークとは、野生の動物が人間から自由と生命の尊重を認められている広い地域であり、ここでは、人間が、車や檻の中に入って動物を見なければならないのである。パークといつでも、関東平野や四国の半分ほどの広さのものもあり、東アフリカに、大小14、5のナショナル・パークがある。ここは昔ながらの野獣王国がそのまま保存されている。

 この他に、ゲーム・リサーブといって、政府の許可を得れば、野獣をハンティングできる地域もある。今日、この他の地域では、ほとんど野獣の姿を見ることはできない。アンボセリはこの地域の1つで、アフリカ最高峰キリマンジャロの麓にある、動物の豊富なところである。

 私は、1970年7月に、ケニアの首都ナイロビの南約200キロの所にあるアンボセリ・ナショナル・パークに、ナイロビで車をチャーター(1マイルにつき1.3シリング。1シリングは50円)して、1人でやって来たのだが、見渡す限り広い平原。そして、まるで牧場に放牧された家畜のように草食動物の群れがいた。それにかげろうが立ちのぼって物が浮き上がって見える。

f:id:moritayuuzou:20200916150848j:plain

f:id:moritayuuzou:20200916150844j:plain

上はタンザニアのンゴロンゴロン、下はケニアのナクル湖自然公園での筆者

 私は自分の目を何度もこすってみた。どう見ても道が湖にさえぎられていたし、湖面には、小さな黒い動物が沢山いた。それは時々かけたり、立ち止まったり、ふと見えなくなる時があった。

 車の窓から身体を乗り出した。50メートルほど右前方をシマ馬と牛カモシカの群れが走っていた。その彼方には、標高6000メートルのキリマンジャロが、頭を雲にかくされてかすんで見えた。振り返ると、今、通って来た車のワダチが、彼方まで続いていた。

 私は随分車を走らせたが、湖には着かなかった。動物たちが立ち止まって私の方を見ていた。お尻の白いガゼルが車の前を数頭、列になって横切った。もう少しで衝突しそうだった。

 ふと前方を見ると、今まで見えていたはずの湖がなくなっていた。小さな黒い動物は、周囲にワンサといるシマ馬やガゼル、牛カモシカに代わっていた。

f:id:moritayuuzou:20200916150933j:plain

カモシカの雄

 私は蜃気楼を見ていたのだ。水はちゃんとタンクに入れて持っていたし、喉もそれほど乾いてはいなかったのに・・・。しかし、蜃気楼に悩まされ、広い大地の上で、野生の動物にとり囲まれていると、解放感よりも、驚きや、喜びよりもたまらない孤独感が迫って来た。

 「オーイ」と叫んでみた。

 シマ馬がお尻を私の方に向けた。そして振り返って見てから“プイン”とおならを鳴らし、後足を高く蹴り上げてかけて行った。白いアゴヒゲを、仙人のようにはやした、長い顔に2本の角を持った牛カモシカが、大きな目玉を見開いて、車からそう遠くないところにたたずんでいた。5頭、6頭、、、10頭。何か話し合っているようでもあった。時々頭を 振って、「フフーン・・・・・・」と鼻を鳴らした。

f:id:moritayuuzou:20200916150856j:plain

f:id:moritayuuzou:20200916150900j:plain

ケニアのアンボッセリ自然公園のシマウマ

 「あの野郎、どこから来たのだ・・・」と話し合っているのかもしれない。

 私は車から降りて行って、彼らのアゴヒゲをなでてみたかった。でもナショナル・パーク内では下車する事を厳禁されている。どこでどんな野獣に襲われるかもしれないからだ。

f:id:moritayuuzou:20200916150920j:plain

ケニアのナクル湖近くにいたウオータバグ

 1時間ほど前に、草原の道を走っていて、象に出合った。待てばいいものを、かまうものかと象の近くを通った。象はキュアーと大きな奇声を発して、耳を立て、鼻を上げ、大きな牙をひんむいて、車に向かって来た。

f:id:moritayuuzou:20200916150904j:plain

f:id:moritayuuzou:20200916150852j:plain

ウガンダのマチソン自然公園の像

 私はデコボコ道をふっ飛ばした。砂煙が舞い上がった。バック・ミラーに象が走って来るのが見えた。でも象の足は、車の速さにはかなわなかった。ホッとしたが、もし車がエンコでもしていたらと寒気がした。あの大きな足で踏みつけられれば車もろともペチャンコにされていたに違いない。2ヵ月前には、道端から、突然出て来た象に衝突したドイツの新婚さんが、車もろとも踏みつぶされて、2人一緒にあの世へ旅立ったそうだ。

 ナショナル・パークやゲーム・リザーブには車無しで入ることは、禁じられているので、少ない金をはたいで1番安いカブト虫形のフォルクスワーゲンを借りたのだが、こう広いと一層小さく、頼りなく思える。やはり、こんな大自然の中に入ってしまうと私一人では実に無力を感じ、誰か話し相手が欲しくなる。慣れてしまうとそうでもないだろうが、野獣よりも人が恋しい。

 蜃気楼が消え緊張感がほぐれると、急にオシッコをしたくなった。車から下りることを厳禁されているとはいえ、生理をがまんするのは、野獣に囲まれているよりも辛い。こう広くては、パーク・レインジャーだって見ていないだろうから、かまうもんかと平原の中に車を止めた。

f:id:moritayuuzou:20200916150937j:plain

f:id:moritayuuzou:20200916150941j:plain

f:id:moritayuuzou:20200916150944j:plain

タンザニアのンゴロンゴロン自然公園のライオン 上は雄 下は雌

f:id:moritayuuzou:20200916150948j:plain

ンゴロンゴロン公園のハイエナ

f:id:moritayuuzou:20200916150928j:plain

f:id:moritayuuzou:20200916150924j:plain

ンゴロンゴロン公園のサイ

 ライオンかヒョウ、象かバッファローでなければ人間様の命を簡単には奪えまいと、車から3メートルばかり離れ、両股を開いてオシッコをした。乾いた灰色の大地が黒くなった。

 20メートルほど先にシマ馬が6頭いて、こちらを見ていた。そのうち一頭が後足を後にだして、腰を前にグイとおとし、私のようにオシッコを始めた。そのかなたに雪をかぶったキリマンジャロが見えた。

 出すものを出すとスカッとした。青い空の真上で太陽がゲラゲラ笑い、陽炎が忙しげに腰ふりダンスをして、乾燥した大気が私の肌をカサカサにした。野獣とはいえ、こんな水のない大地によくすめるものだ。人間なら3日ともたないだろう。私は再び車を走らせた。

f:id:moritayuuzou:20200916150916j:plain

ウガンダのマチソン公園のガゼル雄

f:id:moritayuuzou:20200916150912j:plain

ガゼルの雌

f:id:moritayuuzou:20200916150908j:plain

マチソン公園のイボイノシシ雄

f:id:moritayuuzou:20200916150952j:plain

タンザニアのセレンゲテイ公園のインパラ

f:id:moritayuuzou:20200916150956j:plain

インパラの交尾

f:id:moritayuuzou:20200916151000j:plain

セレンゲテイ公園のキリン

f:id:moritayuuzou:20200916185407j:plain

セレンゲテイ公園の長耳キツネ

f:id:moritayuuzou:20200916185411j:plain

セレンゲテイ公園のチータ

f:id:moritayuuzou:20200916150840j:plain

タンザニアのセレンゲテイ公園での筆者