古き良き時代のオセアニア オーストラリア➉
有袋類カンガルー
オーストラリアに行けば、どこにでもカンガルーがいるなんて思うのはとんでもないことで、よほど人里離れないと野生のカンガルーなんて目にも触れない。
カンガルーは夜行性なので、昼間にハントすることは困難だから、夜、車にライトをつけて撃つ。最もよい時刻は夕暮れと夜明け。
カンガルーの長い尾は非常に弾力に富んでいて強く、敵を一撃のもとに倒す威力を持っているのだが、この尾が一番うまい。と言っても牛肉には比較にならないし、スープのだしにすればなんとか口にすることができる。
1770年6月、キャプテン・クックの一行は、北クイーンズランドのトリティ湾で船を修繕するため2ヶ月間滞在した。その間に、原住民たちがキャンプ近くまで来るようになったので尋ねた。
「あのピョンピョン跳ねている動物は何だ」
「カンガルー・カンガルー」
「ああそう、カンガルーという動物か」
クックたち一行は、これ以来この動物をカンガルーと呼ぶようになった。いや彼らばかりではなく、今日、全世界の人々がカンガルーと呼んでいる。
ところが、後で分かったことだが、「カンガルー」はその地域の原住民語で「分からない」とか「なんですか」ということになるそうだ。
オーストラリアには野獣はいなかった。一番大きな動物はカンガルーであった。原住民たちが、ブーメランや槍でカンガルーを獲って食っていたそうだが、ヨーロッパ人が移住するまでは、草食有袋動物の天国であった。
有袋類は1億2千万年ほど前に胎盤類と同時期に地球上に発生した哺乳類の特殊な群れとされている。しかし、成長途上にある胎児を養う胎盤あるいは後産がない。
受胎後約33日にして、約2センチの羊膜に包まれていない胎児は、母体より這い出す。その数時間前から、雌は、胎児が袋まではい上がる15センチくらいの間をつばをつけてきれいに嘗めておく。胎児はベトベトに濡れた母体の腹毛の上を腹綿にそって、まるで泳ぐように育児袋に向って這い上がる。
育児袋に入った胎児は、乳房にしがみつき、母乳を吸って成長する。袋の中に約七カ月いると、子どもは袋から出る。
カンガルーの後ろ足は大きく、前足は小さい。だから、ピョンピョンと跳ねるときには前足は地に着かない。
何より、キャプテン・クックの約70年後に、有袋動物の多いオーストラリアを訪れた神学生ダーウィンは、大陸の不思議な動植物と南米のパンパスで発見された化石などからヒントを得て、己の信ずるキリスト教に反旗を翻し、「進化論」を唱えたのだった。