古き良き時代のオセアニア オーストラリア⑪

メルボルンのハエ

 シドニーを午前8時に出発したパイオニア、バス会社のバスは、首都のキャンベラを経由して、ニュー・サウスウェールズ州境の町オルブルに着いた。州境のムライ川を渡ってビクトリア州側の植物検査官が実に厳しかった。まるで国境と同じようで、車中で食ったバナナやオレンジの小さい切れ端まで拾って紙袋に入れた。

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私を世話してくれたアンセット・パイオニアのバスの運転手とバス。

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首都キャンベラの国会議事堂からの眺め

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キャンベラに展示されていた、シドニー湾に沈んでいた日本の潜航艇

 私は紙袋に入ったオレンジを2個持っていた。それを取り上げあげられたので文句を言った。

 「それではこのオレンジを今すぐ食べてしまってくれ。さもないと持って行く」

 私は2個のオレンジをその場で急いで食ったら、検査官は私が皮をむき終わるまで待って、それを袋に入れた。

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メルボルンの交通警察官

 オーストラリアでは州境の植物検査官が非常に厳しい。その理由は病原菌の伝染予防だ。

 オーストラリア大陸は、わずか180年前までは、文明人が保有しているウィルスも、他の諸国にいる病原菌、害虫はいなかたし、ハエもいなかった。ところがヨーロッパ人移民後は、ありとあらゆる病原菌や害虫が、植物や家畜、そして人間と共にやって来て、オーストラリア全土に広がった。

 その端的な例がハエ。シドニーではそれほど感じなかったが、1月早々にメルボルンに着いて街を歩き、ハエの多さとしつこさに驚いた。

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メルボルンの中心地

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メルボルンのヤラ川にかかる橋

 インドにもハエが多く、うるさかったが、メルボルンのハエほどにしつこくなかったし、目や鼻の中にまで入って来なかった。

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メルボルンの中心街

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メルボルン中心の商店街

 ところがメルボルンのハエは、追えどもはたけども逃げやしない。おまけに口の中にまで入って来るので、うっかりすると生きたまま呑み込んでしまう。しかし、家の中はきれいで、ハエなどいない。

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メルボルンの子供たち

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メルボルン中心を流れるヤラ川

 これはメルボルンだけではなく、オーストラリアの放牧地はどこでも、牛が運んだハエが天敵や病原菌もいないときているから、我がもの顔に繁殖している。しかし、メルボルンの人はあまり気にしない。

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メルボルンの公園

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メルボルン郊外の家

 今日のオーストラリアは、フルーツなんかの病害虫はいくらか持ち込まれてはいるが、日本やアメリカ、ヨーロッパに比べると、まだ遥かに少ないので、消毒をする必要がない。メルボルンには果物や野菜が豊富で、街は案外きれいだ。

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ホームパーティーで知り合った若い夫婦の家

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家での昼食に招いてくれた夫婦

 日本で、温州ミカンに2~3年消毒しなければ、樹はもう栽培不可能になるほどいろいろな病害虫に痛めつけられるが、オーストラリアでは、あまり消毒しなくてもよい。人々も純朴で、すぐに親しくなってホームパーテイーなどに誘ってくれる。

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若者たちのホームパーティー

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ホームパーティーに招いてくれた娘さん

 オーストラリアのみならず、日本だって他国から病原菌のウイルスや害虫が持ち込まれることを極度に恐れ、検疫が厳しい。大変検閲の厳しいメルボルン郊外の自然は、まだ原始的であった。

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メルボルン郊外の原始的な林の中の観光地

 オーストラリアは一国といえど大陸なので、予防対策が州ごとにあって、お互いに敬遠し合って、新しい病害虫が伝播せぬように、ハエの二の舞を踏まないように、という願いが込められているのだという。特に家畜の多い牧場などの人々は気を使っている。

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メルボルン郊外の牧場での筆者