古き良き時代のオセアニア オーストラリア④
オーストラリア的風景
シドニーに着いて間もなく、同郷の日本人宅に招かれた。彼は、丘の上のモダンなマンションの4階に住んでいた。
広い大きなガラス窓から種々様々な屋根が見えた。モザイクスタイルもあれば縞模様、色違い、それに瓦の大きさを違えたのもあり、大変美しい光景だ。いったい何のためにあんな具合に美しく調和するように屋根瓦を葺くのだろう。
「ありゃ、見る人を楽しませるために協力して作った屋根じゃねえ」
彼はそう言って笑った。しかし、人に見せるために自分の家の屋根を葺くなんてどう考えても納得がいかないが、全体的には実に美しく見える。
後日、中央オーストラリアのアリススプリングからアデレードに飛んだ時、私の隣席にいた、アデレード郊外で牧場を経営しているという中老のカフレイさんが、こんなことを言っていた。
「美しいでしょう。どこから見ても美しいように区画されているんですよ。大地なんて上空から眺めるのが一番美しいのです。あの区画はケツタッキーですね。あれはイタリアン……こちらは麦です。あそこはコーン、あそこは何もない・・・」
15、6種の区画に植えられている穀物名や牧草名を教えてくれた。とっても楽しかった。それこそ、ピカソの描く画なんかよりも、アデレード近郊の農業地帯が奇妙な調和をなした美しい眺めであった。
何のためにあんな美しく区画され、様々な農作物が栽培されているのだろう。褐色の無味乾燥な大地というイメージを変えるためだろうか。
そういえば、シドニーで毎年開催される、オーストラリア最大のお祭り、ローヤル・シドニー・フェスティバル・ショーの農業祭で、農産物の品評会が催されていたが、展示された農作物を見て驚かされた。
ありとあらゆる農産物が、モザイク式の美しい画を描いていた。品評会の対象は、1つの農作物ではなく、多くの農作物が、いかに品質のより産物で、どのように美しく表現されているかであった。
私は、もともと農学部を卒業しているので、農業に関しては、いかに不良学生といわれても、いささかの知識と技術を身につけている。だから、全世界を旅行し、至る所で農業祭や産物品評会なるものを見たが、この時に見た農産物品評会の展示会場のように美しく、調和のとれた展示を見た事がなかった。そこに描かれている素晴らしい色彩のすべてが、果物、野菜、穀物、羊毛、毛皮などで表現されていた。
こんなことまで説明しなかったら、高所から眺めている民家の屋根の集合体が、計画的に作られたかのように、色彩豊かで美しいのかが分かるまい。何より、オーストラリア的風景を見ていると実に楽しい。なんだかおとぎの国にでもいるような錯覚に感動した。