古き良き時代のオセアニア オーストラリア ②

世界一のオペラハウス

 オーストラリア人は「世界一・・・」という言葉が好きな国民である。「世界一素晴らしい湾」「世界一大きな一枚岩」「世界一長いツアー」「世界一のオペラハウス」などと、列挙していると果てしないが、どことなく横柄で呑気な性格の所存である。

世界一巨大な一枚岩エールスロック

 世界一のオペラハウスには、年月も費用もそれにそんなことなど気にしない、ただ世界一という意義に憧れる、世界一呑気な性格が加わっていた。

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世界三大美湾の一つとされるシドニー湾の入口

 シドニー市民たちは、今から百年後には歴史上の立派な建築物になるのだから、時間や費用にケチケチしてはいけないんだと言いたげなところがあった。その前近代的な国民性が、目先の効きすぎる私たちの感覚にチクリと針を突き刺す。まさしくこのオペラハウスは、21世紀にも通用する代物なのだ。

世界一を誇るオーストラリア人の夕食会

 1956年、オペラハウスの設計を全世界から公募し、デンマーク人のデザインが採用され、59年から工事が開始された。

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遥か遠くに見えるオペラハウスとハーバーブリジ

 オペラハウスの建設費は、最初976万オーストラリアドルで、完成予定は64年であった。しかし、64年には完成が67年で費用は3,480万ドルに改められた。65年には費用は見積もりが5,000万ドルになり、66年には、工事責任者のデンマーク人が未完成のまま帰国してしまった。

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オペラハウスを眺めるカップ

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拙著の表紙になっているオペラハウス

 とにかく、これではシドニー市民自慢の種にケチがつく。そこで当時の建設大臣が、その後の責任を負って、費用は何と8,500万ドルで、当初の実に8.7倍、歳月は10年以上も遅れてやっと外見だけが完成したと言う。

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世界的に有名なシドニー湾のハーバーブリジ

 私はこれまでに何十ヵ国も踏査し、あらゆる人や文化に接して来た。しかし、私がオーストラリアで接した、「世界一・・・」と口にする人々はどこか違っていた。それはヨーロッパにもアメリカにも、アジア・アフリカにもいなかった。白楽天の“白髪三千丈”的人たちであった。

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中央郵便局の大きくて立派な古き良き建物。左手の銅像は、局前の忠霊塔を守る兵士の像

 私が、日本と比べて物価の高い(当時)オーストラリアを、五カ月もかけてくまなく旅行できたのは、このオペラハウスを自分でも作りかねない、「世界一・・・」を自負する人々の協力が得られたからであった。