中国内蒙古のモンゴル族① モンゴル族の角力(すもう)
1982年9月初めに、中国内蒙古自治区の区都フフホトで、「全国少数民族伝統体育運動会」が開催されることを北京で知った。
アジア諸民族を踏査している私にとって、中国大陸の各民族が一堂に集まって、伝統体育を披露する機会などめったにないことなので、是非参観したかった。
当時はまだ、中国内を自由に旅行できなかったので、中華全国青年連合会傘下の青年旅行社に頼んで、訪問許可を取ってもらった。
内蒙古の区都フフホトでは、内蒙古青年旅行社の社員で、モンゴル族のニマさん(32歳)が、いろいろ世話してくれた。そして、通訳には、山形大学に2年間留学し、帰国したばかりの、モンゴル族であるホシコ・ポインさん(46歳)をつけてくれた。
私は、内蒙古に10日間滞在の許可を取っていたので、まづは、ホシコさんの案内で55もの少数民族が集まった伝統体育運動会を、2日間参観した。その中で、モンゴル族のブッホ、またはプッフと呼ばれる角力を初めて見た。モンゴル角力の選手たちは上にはチャントクというカラフルな皮製のチョッキを着て、赤・青・黄色などの布で飾り、オムッツと呼ばれるモンゴルズボンをはき、ゴトルと呼ばれる長靴を履いている。
筋骨逞しい若者たちは2組に分かれ、まるで、日本の大相撲の呼び出しのように、抑揚のある声で1人ずつ呼び出される。
土俵はなく、同時に何組も取り組むので、見るのが忙しくて、ゆっくりなど見ていられない。手・膝・尻・肩・背などが大地に着くと負けというのがルールだが、比較的組み合っているのが長いし、決まるのは一瞬なので、決まり手を見定めるのが容易ではない。
勝者は両手を翼のように肩より上に開いて交互に振り、足をはずませて跳ね上がり、人々から栄誉を受ける。そして、茶の葉を蒸して固形化した磚茶とハタと呼ばれる白い神聖な布をもらう。
アルタイ系牧畜民は、もともと吉凶や勝敗を占うために角力をした。角力は天の意志
を決定する一つの手段で、集会の最後に、角力で皆の運命を占って別れるのが習慣であった。