中国少数民族の格闘技 角力
日本の民族的、文化的な源流を求めて、中央アジアから東の諸民族を1971年以来踏査を続けているうちに、いろいろな地域に日本の相撲、角力に類似した格闘技があることを知った。
いずれも土俵はなく、2人が組み合って相手をひねり倒すか、足技で倒し、肩・背・尻などを大地につけさせると勝ち。
日本の相撲は、力比べの素裸の演練から「素のまひを取る」と呼ばれ、それが転じて「すまふ」となった名称だそうだが、東アジアの格闘技の多くは、服を着用し、腰に帯を巻いて4つに組み合うか、柔道着のような特別な衣類を身につけて対峙し、力と力をつき合わせて競う“角力”である。
私は幸運にも、中国少数民族伝統体育運動会で、東アジアの中国大陸における各民族の“角力”を、半日かけて見ることができた。
モンゴル族はもともと吉凶や勝ち負けを占うために、“ブッホ”を行ったそうだ。ブッホと呼ばれる角力は、天の意志を決定する一つの手段で、集会の最後に行われた。
ブッホは、チャントクという皮製のチョッキを着用し、収穫の感謝祭でもある「ナダム」などで行われた。
チベット族の“ベカ”は、行司役がうまく組み合わせ、合図によって始める。四川省のイ族系と言われる、ノツス族の“ボウー”は、最初から四つに組み、腰ひもを握りあってから始める。
雲南省のプミ族の“パボ”は、お互いの腰ひもを握って組み合い、行司の合図で始める。雲南省のサニ族の“ラファベ”は、初め両手を前後に振り、足を後ろに蹴りつつ見合ってから組み合う。
吉林省の朝鮮族の“シールム”は、片膝をつき、組み合ってから立ち上がって始める。漢民族の“スエチョウ”は、直径8メートルほどの円内で行う。
チベット族やノップ族、朝鮮族は、最初から組み合って、お互いが十分な態勢になってから戦い始め、1回勝負であるが、漢民族の“スエチョウ”は、手、膝などをつけさせると1点きれいな技で倒すと2点となり、持ち時間内の得点によって勝負がつく。
角力は、いずれも単なる武闘訓練や勝負事ではなく、「神占い」としての行事であり、民衆の娯楽と結びついた伝統体育であった。