新制中国の望郷編⑫ 浙江省 シャ族Ⅱ

 翌5月3日の昼前、后降村村長雷さんの家の前の田圃に作られた苗床に、竹かごに入れた種籾を蒔いている人がいた。すぐ近くに田植えをしている人々もいた。4、5人が並んで植えているのに、苗はほぼ直線になって、前後左右一定間隔になっている。半世紀前には日本でもよく見かけた風景である。 

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種もみをまく苗床を作る人

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柄ぶりをかけられて整地された苗床

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苗床に種もみをまく青年

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手かごに入った種もみ

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苗床の成長した苗を採る男たち

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田植えする女性たち

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日本と同じように田植えする女性

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景寧県で一番早く田植えができる藍香藍さん

  農具である鍬は、日本のものとほぼ同じ。扁平なさらえ鍬は田の畦づくり用。厚い板状の唐鍬は固い土の掘り起こし用。熊手鍬(三つ鍬)は水田耕作用。熊手鍬の爪は普通3本だが、ここは4本ある。日本では、4本爪の鍬は、弥生前期のもので、大変古い型とされている。

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水牛に犂を引かせる農夫

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牛に農具を引かせて、田面をならす農夫

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シャ族が使用するいろいろな鍬

  村には棕櫚(シュロ)の木があり、竹林や雑木林があって、ヨモギやオオバコ、茅などが生えており、棚田と瓦屋根の家が織りなす風景は、日本の田舎のようである。 

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棕櫚の毛で作った蓑

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竹製の帽子をかぶり、棕櫚の蓑を身に着けた青年

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棚田や竹林がある日本的風景

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筍,十薬の根、つわぶき、みょうが、きくらげ、田にし、カエル、鯉、鶏など、すべて自家製のもので、まるで薬膳料理、80歳以上の長寿者が多かった。

 この辺では稲と菜種や豆類との二毛作で、今、菜種や豆の収穫を終えようとしている。水稲はたいてい4、5月に田植えをし、7、8月に収穫する。

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田のあぜ道を歩く農夫

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エンドウ豆を収穫する老婆

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菜種の実を脱粒する農夫

 “畲”は、田の上に建てられている家を意味する漢字で、“苗”と同じく、漢民族から見た水田稲作農耕民の一方的な名称。村人たちは、自分たちが何故に畲族なのか、その理由を知らなかった。しかし、今の自称は”畲哈(シャハ)”だそうだ。

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山間の棚田

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竹製の帽子をかぶった老人

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天秤棒を担ぐ村人

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筍の皮をはぐ老婆

 畲族は、1982年の統計によると、総人口68万人とされている。畲族の分布は、浙江、福建、江西、安徽などの江南地方の広範囲にわたっている。江南地方の越系民族との混血漢民族が多くなった中で、今も頑なに越系稲作文化を保ち続けているのは、山間の僻地に住む畲族だけであるという。

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シャ族の子供たち

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長い煙管でタバコをふかす、87歳の雷瑞宝さん

 私は、畲族の村を訪ねて以来気にしていた「先祖は犬」の伝説を確かめた。

「畲族は、昔から侵入してきた漢民族とよく戦った。そのため、漢人たちが『畲族は野蛮人で戦争好きな民族なので先祖は犬に違いない』という蔑視から、漢族が勝手に『畲族の先祖は犬』という伝説を作り上げたのです」 

 通訳兼案内人の雷振余氏が、畲族を代表して説明してくれた。

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シャ族の墓

 畲族独自の伝説や口承文化による「先祖は龍」だというのは、日本と同じような大蛇信仰のある、越系稲作農耕文化の流れをくむ人々であることは間違いないだろう。

  私は2泊3日の滞在中に近在の暮坪湖村と大張杭村の畲族をも訪ねた

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詳しくは拙著「江南紀行」をご覧ください。