ミャンマー北部探訪㉒ カチン州の踊る祭典”マナウ”
ミャンマー北端のカチン州には沢山の部族がいる。カチンはビルマ語で、カチン州の人々は自分たちのことをカチンとは呼ばない。それぞれの部族、例えばジンポー、リスー、ロワン、タイ、アジン、トーチャン、ラショー、ザイワなどと呼ぶ。しかし、イギリス植民地当時に付けられたビルマ語、今日ではミャンマー語でカチン族などと呼んでいるし、カチン州が存在しているので、各部族を総称してカチン族としている。
そのカチン州で年に一度の踊る祭典“マナウ”が、1月5日から開催され、全カチン州から各部族の代表がミッチーナーに集い、踊りを披露するのを見た。
午前10時からマナウ会場の『カチン州立マナウ公園』を訪れた。中央から左側にはステージがあり、ファッションショーなどが催されたり、中国製などの商品展示会や物産展、販売店などがあり、いろいろな民族衣装の人出が多かった。
中央から右の方に円形に囲われた運動場があり、中央に大きな柱が一列に6本立ち、小さいカラフルな旗を結び付けたロープが四方へ無数に伸びて、上空が華やいでいる。
一列に並んだ柱の表にはステージがあり、マイクが7本立っている。柱の裏側には車輪のついた直径1メートル、長さ3メートルもある大太鼓が1つと、直径50センチほどの銅製の鉦(かね)が5個ずつ、2組吊るされている。
ミッチーナーから北へ300キロ離れたカオリコンシャン地方から来たノーチャン族の中に、コーウィンという21歳の可愛い娘がいた。顔立ちは日本人と同じだが、頭に黒っぽい布の帽子を被り、首に黄色と柿色のビーズの輪をかけていたので撮影させてもらった。
午前11時過ぎから各部族が会場に入り、開会のセレモニーがあり、11時半から1列になって踊り始めた。音楽はステージに立つ7人が一斉に歌う。その歌の伴奏は、大鉦や大太鼓の打ち鳴らす音。野外ではあるが拡声されて耳がはじけるように鳴り響く。
踊る人たちは右回りと左回りの二手に分かれて、歌や太鼓のリズムに合わせて踊りながら進む。先頭は司祭者なのか長さ1メートルほどの太刀を捧げ持ち、次の5人の男は太刀を日本の神主が用いる笏(しゃく)のように捧げ持って、リズミカルに歩いている。その後に踊る人たちが、足を交互に前に出し、反対の足を寄せてステップを踏み、次には後の足を前に出しながら、両手を交互に振り上げつつ前に進む。
男も女も同じように踊るのだが、参加者の数は女性が多い。どの部族も一般的に男の衣装は地味だが、女の衣装はカラフルで目立つ。男は弓矢、刀、槍などを手にしている人がいるが、女は素手か布を持っている人が多い。
一列縦隊の踊り手たちは、先頭に従って交差したり、円形や渦巻き状になったり、斜めに進んだりと行動様式は少々変化するが、1時間たっても休むことなく踊り続ける。
最初の1時間は、私自身興奮して撮影とリズムに陶酔気味であったが、さすが1時間半も過ぎると、雰囲気に飽きるというよりも、呆れ返ってしまった。
彼らは水も飲まないし、食事もしないで、歌や太鼓、鉦のリズムに乗って、休むことなく踊り続けている。共同体の集団的陶酔感によるのだろうが、歌う人たちの声帯や太鼓や、鉦を叩く人の腕の筋力がよく続くものだと感服させられた。踊りは3時間程続くそうだが、私は、他にも用事があったので途中で退席したので、最後まで見届けられなかった。