ユーラシア大陸横断鉄道の旅⑫ 平壌
4月23日の平壌は快晴だった。新義州への汽車の発車時刻は正午なので、午前中に市内見物をする。
町は、5年前に訪れた時よりも活気があり、人や物が多く、ずいぶん明るい雰囲気になっている。5年前と比べると、車の数が増え、信号機が設けられ、バスの運行数も多く、路面電車も走るようになっている。
東洋一の高さ(300メートル)を誇る105階建てのピラミッド型ホテルは、市内のどこからでも見える。在日朝鮮人たちの協力によって建設が進んでいるのだが、日本の経済不況で建設資金が不足しているそうだ。しかし、この秋には完成させるとのことだった。
すでに4年前に完成しているルンナ競技場は、収容人員がなんと15万人で、世界一大きな規模を誇っている。
人口150万の平壌には、空高くそびえる「チュチェ思想塔」「千里馬銅像」「凱旋門」「人民文化宮殿」「人民大学習堂」「学生少年宮殿」など、巨大な建造物が多い。人々は高層住宅で生活し、一階は商店、食堂、理髪店、雑貨屋などになっている。ご自慢の幸福通りやスポーツ通りなどは、あまりにも立派すぎて、かえって政治力の凄さを見せつけられ、権力者の一方的都市計画が露骨に見え、なんだか身の縮む思いがする。
旅行者の通訳兼案内人である太さんの月給は、120ウォン。1ウォン約61円なので7320円である。この国では1月に50から80ウォンあれば十分生活ができ、住宅費は不要であるという。他国の事情をあまり知らない太さん自慢の鼻息は、かなり荒い。
外国人用の高級商店には、日本製品の電気製品、菓子、タバコ、ビール、酒、雑貨などがあふれている。街を走る中古車も大半が日本製。正式な外交はないのだが、在日朝鮮人たちの裏ルートを通して行う、血の出るような努力と苦労が実を結んでいるのだろう。
北朝鮮は、主義思想の形よりも、建国と近代化への道を突き進んできたのだろうが、あまりにも強い権力の集中化は、恐怖心を煽りこそすれ、民主的ではない。
平壌は確か近代的な立派な町である。しかし、人々の住宅街としての暖かさが少ない。外見はよいのだが、中身が透けて見える。なんだか人々がいつも背伸びしたり、足踏みをしたりしていような落ち着きのない感じがする。もう少し泥臭いところがあれば良いのだが、まるで秀才ばかりが集まっているような街なので、面白みに欠けている。しかし、町の中央をゆったり流れている大同江に抱かれた天然の要塞都市で、自然環境や立地条件には恵まれている。