内蒙古からチベット7000キロの旅㉝ 死の川でヤクを追って

 翌16日の朝、雪山賓館を出て、リチューと呼ばれる川沿いの道路工事事務所についたのは、午前11時すぎだった。

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標高4,500メートルにあった雪山賓館 中はベッドがあるだけ

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雪山賓館があった陀陀河近くの村

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村の中を走るラサへの道

 蒙古高原やチベット、青海高原では、川で泳ぐ者はいない。水の冷たい川に入ることは死を意味するのである。標高4,400メートルの高地にあるリチューの自然状況は、正午の気温摂氏14度、水温摂氏8度、風速10メートル、水の流れ秒速1メートル、川幅約50メートル、水深1メートル、水の色は灰緑色、上空には雲が多い。温かみのない寒々とした荒野。

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リチュー川沿いの道路工事事務所とヤクの隊商

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私が追いかけたヤクの隊商が遠くからやってくる

 私は、撮影のため、このリチュー川で西川さんがヤクを追って泳いだ追体験として、同じように水泳パンツ一枚になってヤクを追って泳いだ。2分も水中にいられなかった。とにかく水が凍りつくように冷たかった。水から出て間もなく、空気も冷たいので全身か硬直しはじめ、筋肉が棒のようになり、歯がカチカチ鳴って震えた。こんな経験は初めてだし、どうすれば良いのかわからない。身体が段々硬直して関節が自由に動かせない。まるでロボットのような動きになって、徐々に感覚がなくなったが、スタッフは撮影で私の側には誰もいない。とにかく身体を温めなければと思い、硬直した体をロボットのように動かして、やっとのこと、近くに駐車していた車の中に入ることができた。

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荷物を背にしたヤクと隊商のチベット人

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隊商のリーダー格のチベット人

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私が追いかけて川に入った隊商のヤクたちの休息

 暖房を強くした車の中で手足を動かしているうちに、筋肉のひきつりは10分ほどで徐々に冶って、衣服に包まれてしはらくすると暖かくなってきた。スタッフは私のこのような死にかけた状態をだれも気付いていなかったし、説明もしなかった。やはり、衣服はありかたい。何より車の中での暖房がなければ、私は死んでいただろう。

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ヤクを追って冷たい水に入ったリチュー川

 その夜は雁石坪(がんせきへい)の招待所で1泊し、標高4600メートルの温泉についたのは、17日の午後1時を回っていた。温泉とはすばらしい地名だが、木一本生えていない荒涼とした大地に、軍の施設があるだけ。雪が舞い、外では寒くてどうにもならず 軍の食堂に入れてもらってラーメンの昼食。温泉などないのに、漢字の名称”温泉”とはけしからん地名だ。

 私たちは、温泉から少し下った旧唐古拉山兵舎(たんぐらさん)に一泊した。夕方から雪が降り、山は真っ白になった。