地球へめぐり紀行

新制中国の望郷編

内蒙古からチベット7000キロの旅⑲ 村人の葬送

 裴家営の村で、漢民族の葬儀を見た。土壁に囲まれた家に親族や知人、村人が集まっていた。

 「悲しいが、85歳の長寿をまっとうしたので、喜んで冥土へ送ってやりたい」

 家人たちの同意を得て撮影が許された。

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葬儀のあった家

 夫を数年前に亡くしていた老婦人は、風邪をこじらせて寝こみ、昨夕、苦しむことなく他界したそうだ。葬儀は55歳の長男が喪主で、親族の長老たちがとりしきっていた。

 土の家の土間に台を作り、そこにふとんを敷き、頭を入口にむけて遺体を置いていた。入口には蒸しパンが山と盛られ、線香と小さな缶ランプが灯されている。部屋の中には2、3人しかいないが、外には5、60人の老若男女が座っている。衣類はまちまちだが、全員頭に白い布を巻いている。

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葬儀の家の入口

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葬儀に集まった人々は、全員が頭に白い布を巻いている

 部屋の入口には、男女一対の人形と馬形を引く人形が置いてある。家の軒から布を張り出しているが、その先端には、赤・青・黄・緑・桃色の短冊に文字を書いて束ね、両側に吊るしてある。そして、白紙に「在常徳範」の文字を大書している。庭の台の上にも、大小の白い蒸しパンが山と積まれている。このへんは麦作地帯なので米飯はない。パンにはいずれも、花模様や点々と紅がつけてある。

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花模様や紅をつけた大きな蒸しパン。

 こうした風習は、漢民族民間信仰である道教の名残だそうだ。文化大革命中に禁止されていたので、このへんには経文の読める道士がいないそうで、テープレコーダーで流していた。

 入口に座っていた白いアゴヒゲの老人が、口の中でブッブツ言いながら、白い短冊を何枚も燃やして煙を立てると、先ほどから泣いていた50歳の娘が、いっそう大きな声で泣き、他の2、3人の女が同調して声高に泣いた。短冊は、冥土へむかう時に使うお金だそうである。馬形は冥土への土産物や食料を運ぶために、三体の人形は従者であるという。

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冥土に必要な金としての短冊を燃やす老人

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冥土への従者としての人形

 近親の男は、衣類の上に縄をたすき掛けにしている。それは、冥土への食料や土産、お金などを運ぶ馬となる証なのだそうである。

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小さな子供までが頭に白い布を巻いていた

 死後のことは誰にもわからないが、生きている者の心遣いによって、冥土への安全な死出の旅かできると信じることは、必ずやってくる死の恐怖から逃れられる方法の一つなのかもしれない。また、その努力によって、心の安らぎと、満足感と存在感を覚える生の証とするのかもしれない。

 遺体は、今日1日、親族の弔いを受け、明朝、野辺に送られて土葬にふされ、土饅頭型に盛り土される。そして、肉体は自然に土と化し、魂は子孫へと永遠に続くのだという。