内蒙古からチベット7000キロの旅⑪ ナダムの競馬
人口1万のウラード中旗の町では、今日から草原の民、蒙古族の祭りであるナダムが始まった。ナダムは“遊び”という蒙古語で、人びとか集い、すもうや競馬をし、市場か立ち、飲み、食い、歌い、楽しく踊る年1度の行事なのである。そのせいで、近在から多くの人びとが集い、人民政府の招待所やホテルが満員で泊まれなかった。
私たちは公安員の許可を得て。郊外の町が一望できるゆるい丘にテントを張った。明日から始まる競馬コースの近くで、草原にはアンパン型の白いゲルが6ヵ所に張られ、たくさんの馬をつないでいた。私たちの100メートル後方にも、ここから40キロほど西のチョワチン村から30頭の馬を連れてきた人びとがゲルを張っている。
彼らと親しくなり、夕食後、ゲルを訪れた。村長や村人数人と7、8名の子どもがいた。明日から3日間の競馬には9歳から13歳までの少年が出場するという。9歳のプホ君、10歳のマントラ君が参加するそうだ。
翌8月21日、8時半ころから競馬に参加する人びとの動きが活発になり、美しい草原に人がたくさん集まった。プホ君やマントラ君は、馬の首を抱いて裸馬によじ上った。彼らは、緑色の布で頭をすっぽり包み、そのはしを左右にたらし、風にひらひらさせながら会場に向かった。
9時すぎると5~6千人もの人びとが集まって、競馬場はたいへんな盛り上がりとなった。
競馬に参加する子どもたちは、布で頭を巻くか包んでいる。緑色、赤色、黄色でそうしている子と、頭に何もつけていないのもいるので、全部で7組である。
コースは3,000と6,000、9,000、12,000メートルの4種類であるが、初日の今日は、子供用で1周半の3,000メートルだけである。1回に6~7頭が出場し、楕円形のコースを走るが、内側に赤い小旗、外側に桃色の大きな旗か立てられている。
スタートは、小さな子には保護者がくつわを待ち、大きい子は自らが30メートルくらい助走し、合図用の赤い大きな旗を持った人の前をそろって通り、旗かふり下ろされて出発となる。保護者は旗より前に行ってはいけない。ゴールでは、ふり下ろされた旗を見てストップウォッチを押す。
若い騎手は一人前にふるまい、馬上で「ヒヤー」という奇声を発し、右手のムチをくるくる回しながら馬を駆けさせる。半周するとだいたい順位が決まるが、中には後半にもつれこむこともある。時にはコーナー回りができず、疾走してコース外に出たり、内に入ったりすることもあるが、再びコースに戻れば問題はない。馬は2~3日休養しているし、興奮しているので、ゴールに入っても馬上の少年にはなかなか止められない。大人が馬を走らせて追いつき、くつわをとらえる。
裸馬に乗った少年たちは、ゴール後に下馬するが、しばらくは足の筋肉が疲労し、歩きづらそうである。たぶん、両足で馬の背をしっかり抱えこんでいたのであろう。
いくつものクループで競うので、順位はタイムによって決められた。最高か4分29秒89であった。3回目に参加したマントラ君は1位で入ったが。4分32秒であった。
競馬に参加している馬は比較的高齢の馬か多い。馬か最も速く駆けられるのは6~8歳だそうである。しかし、長距離には弱いという。馬は10~13歳くらいになると、速く駆けることはできないが、長距離を安定した速さて駆け続けることかできるそうだ。そのため、5,000メートル以上の距離になると、10歳以上の馬か選ばれるそうだが、3,000メートルには8~10歳の馬が多いそうである。
競馬は休みなく続くので、観衆は時のたつのが分からない。私もつい見入ってしまい、リポートすることを忘れるほどだった。