3泊4日の三峡下り(1997年8月) 重慶・武漢

 1997(平成9)年8月30日、北京から重慶に飛んだ。中国大陸の鍋底と呼ばれる四川盆地の東南にある重慶はなんと摂氏43度もあった。

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ダムに水没する前の川沿いの重慶市

 翌31日の午前9時、4,500トンのビクトリアⅢ号に乗船。乗員108名。我々客は少なく僅か33名。

 午後2時、人口10万人の潽陵(フーリン)を過ぎる。この町は半分以上がすでに水没している。午俊4時、人口4万入の豊都(鬼城)に着く。上陸し標高288メートルの名山にリフトで上る。頂上の寺院だけは残るが、町は完全に水没するので現在対岸の山麓に高層アパート群を建設中。

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ダム完成後は水没する泌陵(フーリン)付近と豊都の街

 9月1日朝六時に白帝城下を通過。ここからが、三峡最初の瞿塘(くとう)峡で、両側に絶壁が迫り、年中風が強いので「風箱峡」とも呼ばれている。

 7時半に巫山(ふざん)の町に着いた。この町も水没するので、更に高いところにアパート群を建設中。ここで小船に乗り換え、大寧河の小三峡の船旅を夕方まで楽しむ。

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白帝城と風箱峡

 船に戻って再び三峡下り。第2の巫峡に差し掛かり、素晴らしい渓谷の中を通る。この渓谷も大半が水没し、美観を損なう。9時過ぎ、姉帰に着いて停泊。この町はすでに大半の人が引っ越し、建物の灯はまばらで街は暗くて淋しい。

 翌2日、午前6時に出航し、すぐに“孔明の宝剣”で知られた美景を過ぎ、第3の西陵峡に入った。5~60メートルもの石灰岩の美しい絶壁は三峡下りの名物だが、ここも水没する。

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巫山の小三峡入り口と巫山市の船着場の市

 やがて湖北省宜昌県三斗坪の三峡ダム建設地点に差し掛かる。現場は朝靄が立ち込めてはっきり見えなかった。長江に実験的に作られた葛州覇ダムによって川上の水深は35メートルになっていた。しかし、その川下では十年足らずで泥土が堆積し、水深が浅くなってすでに大型船の航行に支障をきたしている。

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小三峡と朝日が昇る三峡の〝孔明の宝剣”

 三峡ダムの第一期工事完成によって水位は更に20メートル上がり、200キロメートル上流まで影響する。2003年には第二期工事が完了し、更に40メートルも水位が上かり、いよいよ発電を開始する。2009年には全面完成し、水位が111メートルも上がり、約600キロ上流の重慶まで、川沿いが水没し、巨大な人造長江ができる。

 近海は流れ込む川の水によって養われている。東シナ海の海産物は有史以来長江によって養われてきた。長江の流れが弱くなると東シナ海が衰退する。そのことによって最も困るのは、日本人、特に九州の人々と東シナ海に面した中国人民である。

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第2期工事建設中の三峡ダム

 三峡ダムは、二期工事をもって中止すべきだ。もし、全面完成すれば、東京都区部とほぼ同じ広さの632平方キロメートルが水没して、巨大なダムができて水蒸気が多量に発生し、偏西風の流れによる気候変動が生じ、21世紀以後の東アジアの人々に多大な損害を与えるだろう。

 昼前に実験的に作られた葛州壩(かつしゅうは)ダムに着く。1時間ほど待つ。20メートルの段差を水のエレベーターで船ごと下るとすぐに宜昌の町であった。船は更に下り、夕方六時に荊沙港に着く。

 

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船は葛州壩ダムに到着した

 暗くなって荊沙港を出ると、川幅は広く、まるで海のようだ。その為、標識を頼りに進み、夜中に洞庭湖の北を通る。暗くて何も見えない。

 翌3日は 朝から両側に山はなく、植林のポプラが立ち並ぶ平地を進み、正午に武漢着。3泊4日の1,274キロに及ぶ三峡下りの雄大な船旅を終えた。

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第2期工事が進む三峡ダムを後ろにする筆者